新年明けましておめでとうございます。ver,2006 |
幼な妻がこの家に来て,初めてのお正月を迎えた。 家事が全く出来なかった頃に比べて,今は大分とレパートリーを増やすことに成功しているようだ。 この管理が難しい大きな家も,普段からきちんと掃除がされている。 結婚をして早半年。 否,結婚―――男性と女性が交わす約束―――というものではないとしても,形ばかりの言葉と指輪の交換もし,互いの気持ちはちゃんと繋がっている。 結婚した,と胸を張れるような。 見かけは女の風に見えなくもないのだが,普段は影を潜ませている強い意志が男を思い出すのだが,それさえも自分にとっては可愛いと思える。 この大きな屋敷を手も抜かずに,毎日掃除をし,朝早くから家を出,遅く帰ってきた時にはご飯の用意がいつもなされている。 もちろん,あいさつ―――おはよう,いってらっしゃい,おかえりなさい,おやすみなさい―――などといった言葉を忘れることなく掛けてくれるのだから,忙しい日々に終われていてもそれが苦と思ったことは,この半年に一度もなかった。 むしろ,仕事を終えて,家に帰る時が一番自分の中で安らぎが持てているのではないかとも思う。 ただ。 申し訳ないのは,幼な妻とゆっくりした時間を持てないのが申し訳ないと思える。 文句のひとつさえ零しているのを聞いたことがない。 きっと思っていることは沢山あるだろうに,それを聞いてやれるような時間の余裕をとれないのが悔しくさえ思う。 それを,なんとかすべく,この年末新年を大切に過ごそうと考えているのだ。 そろそろ年賀状が届いている頃だろうと思い,ポストに目をやったが,そこには何もなかった。 彼がもう取っ手いったのだろうか? まずリビングに足を寄せてみたが誰もいない。 テーブルの上においてある何かのノートが空調のためにぺらぺらと音をたてている。 アスランはそのノートを閉じようとそれに手をやると,キラの小さく丁寧な字が沢山綴られていた。 日付とその下に書き込まれている文章を見るあたり,どうやら彼の日記のようだ。 一番新しい日付が今日,となっている。 ――普段俺にいえないことをここに書き込んで憂さを晴らしてる・・・・・・? 申し訳ない気持ちと好奇心をない交ぜにしたような感情がアスランの中で交差する。 結局アスランはそれに目を走らせてしまった。 『1月1日 今日は朝から大きな失敗をしてしまいました。 お雑煮を作ろうと,白味噌を出しました。 昨日の夜のうちに出汁を用意し,アスランに美味しく食べてもらおうと思っていたのに,間違って普通のお味噌を使ってしまいました。 白味噌だと書いてあったのでそれをレジに持っていったはずなのですが,どうやら僕が見間違いをしていたようです。 急いでおしるこを用意して,アスランに食べてもらいましたが,とてもショックです。 お義母さまにはアスランはおしるこよりお雑煮が好きだと聞いていたのでとても悲しいです。 普段からあまり甘いものを好んで食べられないので,もしかしたらおしるこは無理して食べてくださったのかもしれないと思うととても申し訳ない気持ちでいっぱいです。 自分で言うのもなんだけれど,僕の料理なんて本当にお粗末サマのものなんだと思えます。 料理教室に通えるといいんだけれど,家をあずかっている人間が無駄な出費をしようとは思えません。 それに,これ以上何かに時間を費やしてしまえば,家の中の掃除がとても疎かになってしまいそうです・・・ もっとアスランに似合うような人間に頑張ってなり・・・・・・』 「アスランっ!」 「わっ,・・・・・・キラ・・・・・・」 思いもしない登場にアスランがとても吃驚した。そして,言われる言葉を予想したアスランは自分が考えても見なかったセリフを言われ,反対に驚いてしまった。 「すみません!!」 どうしてキラから謝られるのか,検討もつかないアスランははっ?と思わず言ってしまう。 彼の表情はどういうわけか,大変真剣且つ申し訳なさそうだ。 「本当にすみませんっ!!」 今にも泣きそうなキラに,アスランは何が謝らないといけないことなのか,さっぱりと分からなくて。 「あの・・・・・・何があったんだ?」 尋ねると,キラは言いにくそうに顔を伏せた。 「あ,あの・・・・・・年賀状を出したじゃないですか・・・・・それで・・・・・・」 言葉にしにくいことなのだろうか? 「住所書き忘れたとか?」 ありがちではあるが,もしかしたらと思って尋ねてみる。それは何となくなさそうな気もするけれど。 「いいえ。それではないんです」 「じゃぁ?どうしたんだ?」 「今年は2006年じゃないですか。だから年賀状にも2006年と書かないといけないのに,間違って2005年と年賀状を作ってしまったみたいで・・・・・・。今友人から電話が掛かってきたんです,年を間違ったんじゃないかって。それで,アスランの職場の方や友人の方に送った年賀状のデータを見ると,やはりこちらも2005年とあって・・・・・・。本当にすみません・・・・・恥をかかせてしまって・・・・・・」 彼の顔の表情は伏せられてしまっているために,全く分からないが,フローリングに落ちた雫が彼の心情を露にしていた。 頬を両の手に挟んで自分の瞳を見させる。 思ったとおり,キラの瞳は涙に濡れていた。 「そんなの,泣くほどのことじゃないだろ?間違いなんて仕方がないさ,俺だってしてしまうこともあるんだから。 キラは俺の自慢の人生と共にするひとだと思っているよ。恥だなんて,自分を卑下するようなことを言うのはやめなさい」 そうして,アスランは彼を抱きしめた。 「人から見て,似合ってるとか似合ってないとか,そんなことじゃないだろ?大切なことは,互いを大事に大切に思ってることじゃないか? 普段は時間がなくて,あまりキラの言葉をゆっくり聞いてやれないけど,俺は誰よりもキラのことを一番に思っているから」 言い終わって彼の背中をゆっくりと撫でてやると,小さな泣き声が聞こえてきた。 ごめんなさい,とも聞こえてくる。 「それから,俺からも。日記を買ってに見てごめんな」 言うと,鼻を真っ赤にしたキラが顔を見せた。 「日記・・・・・・?あの,テーブルに置いてある・・・・・・・?」 「ああ」 言うと,キラは赤かった顔を一気に真っ青にさせた。 「見たんですか・・・・・・」 「すまない」 あれには情けない自分の姿態がかなり書き込んである。 見られるような所においていた自分が情けなくて仕方がない。 それを見かねたアスランは申し訳なさそうに呟いた。 「見たのは今日の日付の分だけだから・・・・・・」 それを聞いたキラは情けなそうな視線をアスランに向けた。 「新年早々,本当にすみません・・・・・・」 「あの,俺は別にお雑煮じゃないといけないということはなかったし,たまにはおしるこもいいかなって思ったから。 キラが気にすることじゃないさ。 それより,手作りで作ってくれていたことが何よりも嬉しいよ」 一言おいて,アスランは言う。 「キラの作ってくれるものなら,なんでも嬉しいから」 それは,甘く甘く,そして静かに優しくキラの胸に広がってくのだった。 |
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