Birthday


3話:絶望







終わりが近づく・・・・・・。










アスランには婚約者がいる。
僕は愛人。
婚約者のとっては,自分の恋人に付き合っている人がいるなんて,信じたくない話であり,またあってほしくない話だろう。
僕の存在は,少なからず邪魔なはずで。
だから,アスランから離れることを決めた。
そんなのは,嫌だった。
離れたくない。
それでも,だからといって,愛人のままでいい訳がない。 そんな事,あっては駄目だ。
だから,自分からアスランから離れようと僕は考えている。
今から一週間後の自分の誕生日の日曜日に。

当日に,ただおめでとうと言ってもらって,その夜にさよならを言う。
ケーキもプレゼントも何もなしで。
アスランの持っている言葉だけの,祝いの言葉が欲しい。
それで,終わりにしようと,僕は思う。
僕は,何度もその状況のシュミレーションをした。

涙が出た。





誕生日の三日前に,休日でも何でもないのにアスランから電話があった。
今から会えないか,と。
僕は二つ返事で,待ち合わせの場所へと向かった。



場所は,アスランの家。
平日にアスランと会うのは,はじめてだ。
一体,何があるのだろうかと,僕は嬉しくなった。
もうすぐやってくる,決めた日。 それまでは,ただアスランとの時間を楽しみたい。
だから,今日の事は,本当に嬉しかった。
最上階から見える景色は,本当に綺麗だ。
思わず見とれていると,アスランから声が掛けられた。
「キラ」
呼ばれた方に顔をやると,どこか何時もと違う雰囲気をしたアスランと目があった。
「何?」
「抱いても,いい?」
急に発せられた言葉に,僕は吃驚した。
嫌とか,嫌でないとか,そういう意味ではなく。 今までには考えれなかったアスランの行動に吃驚している。
普段,その時のムードで流れるから,そんな言葉を口にしたことはなかった。
お互いに。
少し不思議に思うけれど,そんな考えは頭から振り切る。
残り少ない,アスランとも時間を大切にしたい。 だから。
いいよ,という言葉の代わりに,アスラン首へ手を回し,キスをした。





いつもより,多く名前を呼ばれたような気がする。
いつもより,なんだか執拗な気がする。
いつもより,アスランが違う気がする。

だけど,どんな事さえも気にならなかった。 終わりを決めてしまったから。





微かな声で,僕は目を覚ました。
ぱっと目を覚ました訳ではなくて,頭がぼやぼやと現実へ戻っていくよう。
もそもそとしか聞こえていなかった声が,覚醒していく頭と比例し,はっきりと聞こえてくる。
「・・・・・・・・ミハ・・・・・・・・・・・・・・ミハウ・・・・・・・・・・・・・・・・」
幾度と無く聞こえてくる名前,「ミハウ」。
その名前は,アスランの婚約者の名前だと知ったのはいつだったろうか?

知ってる。
知ってるから,決めた。 自分の誕生日まで,と。
知ってるのに,知ってるのに・・・・・・・・・
分かってるのに・・・・・・・・・・

地獄へと突き落とされたような感覚になりながら,僕はアスランと寝ていたベッドから体を起こした。
気だるい,体を。

あれから,僕は自分の家へと帰った。 近くにあった自分の服と鞄を手に。

いつも,休日はおのずと会う約束を前日にしいていた。
だから,休日の前の日の今日も,約束が出来ると思っていた。










いつもメールなのに,その日は電話だった。
「もしもし」
いつものように通話に出ると,聞きなれた耳に優しい声が聞こえてきた。
「今から会えるか?ちょっと,話がしたくて・・・・・・」
少し前から,アスランの様子がおかしくて。 そして,今日もおかしい。
いつもとは違う,落胆を隠せないような,そんな感じ。
だけど,僕はいつものように,二つ返事で答えた。
「場所はどこ?」





指定された場所は,はじめて出かけたあの海だった。
「キラ,来てくれてありがとう」
やっぱり,沈んだ声。
なんとか,癒してあげたくて,明るく答えた。
「ううん,大丈夫」
暫くの間の後,アスランは,言いにくそうに話し始めた。
「俺,話すのが余り上手くないから,どう切り出そうか考えたんだけど,やっぱりそのまま言うよ」
「う・・・うん・・・・・・・」
「婚約者がいること,キラは知ってるよな? ミハウっていう―――」
「知ってるよ」
敢えて,アスランの言葉を遮った。
「・・・・ミハウが今,危篤状態で・・・・・・・。 残りの時間が短いから,ミハウに付きっきりでいたい・・・・・・・・」
「うん・・・・・・・・」
僕は頷いた。 アスランの言葉は分かっている,と伝えるために。
アスランの口から,何が言われるのか,分かってしまった。
だから,頷く。
少し前から,アスランの様子がおかしかった理由が,やっと分かった。
アスランの口から,そんな言葉を聞きたくなかった。
自分から切り出して,自分から笑ってさよならと言いたかった。
「ごめん,別れたい」
「謝らなくていいよ。 僕も,婚約者のことは承知の上だったし」
一度,言葉を切る。
「僕も,そろそろ時間だなって思っていたから」
少しの間,口から言葉が何も出てこなかったけれど,出てきてしまえばあっという間だった。
「僕のほうこそ,こんな僕のためにいろいろさせてしまってごめんなさい。
 今までありがとう,本当に楽しかったし,嬉しかったよ。 本当にありがとう。
 道で,すれ違っても,お互いにお互いのことを知らなかった頃のようにするから。大丈夫だよ。
 今日までありがとう」
きっと,アスランが望んでいるだろう言葉を,自分から言ってしまう。
アスランに言われるより,自分で言うほうがいく倍もマシだった。
一緒に座っていたベンチを僕は勢いよく立った。
「これから帰るね。 本当にありがとう」
涙は見せない。 きっと,アスランに迷惑をかけてしまうから。
そして,僕は一気にもと来た道へと走った。
これが,僕の精一杯だった。





家に帰ると,時刻は零時を過ぎていた。
5月18日。 望んでいた祝いの言葉は,もう二度と聞くことはない。

我慢していた涙と,泣き声を羽根布団で僕は隠した。
















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