一瞬,今,全て,永遠。






お香の匂いが鼻が燻る。
ここに来るには,未だに勇気がいる。けれど。
そんなことを言ってられないときもあるから。
だから,ひとりで来た。

―――今は大切なひとを見つけたから・・・・・・・










「本当にごめんな!」
そう謝るアスランに,キラはいいよと笑った。
「大変なんでしょ?仕方ないことだよ」
仕事のこと言ってしまったら同居なんて出来ない。 これはどんなに仲が良くても,恋の仲でも,見守っておかないといけないこと。
「誰かがね,お参りをしに来てくれたみたいでね,和菓子が置いてあったよ」
「良かったな」
「うん」

忙しい日々に終われる中,やっとのこと取れたアスランの休日。
熱いお茶を煎れて,お菓子を食べて。
のどかな秋。

「そういや・・・・・もう秋なんだな」
しみじみと言うから,キラはとても可笑しくって思わず笑ってしまった。
「何言ってるの?一雨づつ,寒くなって言ってるよ?」
秋の日差しは残りつつも,風が少し冷たい。
けれど,この冷たさもなんだか心地よい,はずなのだが。
「確かに・・・・夜の蒸し暑さはなくなったけどな・・・。そうか・・・もう秋か・・・・・・」
夏も,お盆を挟むためとかでアスランは休日返上で働いていた。
海にも行こうとか言っていたはずなのだが,なんだかんだと思っているうちに季節は夏から紅葉の美しい秋へとうつっていっている。
「ねぇ,アスラン!せっかくの休日なんだからさ,外散歩しない?」
突発的なキラの誘いに吃驚しなくもなかったが,特に支障があるわけでもなく。
二つ返事を返すと,それぞれ用意をするために席を立った。





キラの散歩コースの中にある街路樹に囲まれた道をふたりは歩いた。
「あのさ・・・・・・アスラン」
「ん?」
「今10月って知ってる・・・・・?」
「あぁ,もうそんな月になっていたのか・・・・未だ9月だと思っていたけどな・・・・」
想像はしていたが,やはりというか案の定というか。
あまりに頓着な様子に,キラは少しだけ息を漏らした。
「あのね,今年のアスランの誕生日,一緒にいられそうにないんだ・・・ごめんね」
「あぁ,誕生日・・今年もまたそんな時期が来たのか・・・いいよ,キラ。気にしなくても」
もう少し反応が欲しかったような気がしなくもなかったが,アスランの頭の中は自分のことよりキラのことの比率が限りなく大きく占めているので仕方ないのかもしれない。
「その代わり,11月に入ったらお祝いするね。なんかこの時期に地方に短期で駆り出されるらしくって・・・嫌になっちゃう・・・・・・」
ふらっと目線を向けると,様々な光景が目に入る。
幸せそうに体を寄せ合う恋人と思しきひと。子どもと一緒に遊んでいる親子。おだやかな表情で話す高齢者。
幸せそうに。
「僕さ・・・父さんと母さんと失って。でもね,アスランが居てくれて,凄く嬉しかったんだ・・・」
握っていなかった手をアスランの指へと絡ませる。
「幸せ,なんだよ・・・・・・」
話しながら,一体何を言いたいのか分からなくなってきた。
しかし,それはアスランも思ったようで。どうしたんだと言う様に,手のひらをぎゅっとにぎる。
「なんだかね。今,幸せで,それがこころの中にいっぱい広がって,ずっとずっと幸せな感じがする。
 永遠まで幸せになりそうな気がするんだ・・・・あたたかいものがこころの中にずっと灯り続けているみたい・・・・・」
「ごめん・・・・・・キラ」
公衆であることを忘れているのか,それともそれにも構うつもりもないのか,抱きしめてくる。
あたたかく。
「どうしてアスランが謝るの・・・・・・?」
「だって,その一瞬を一緒に積み重ね続けていることが出来てないだろ?」
「あ・・・・・・・,気にしてないよ?」

「仕方ないでしょ?仕事は」
自分たちが生きていくには,やはりお金が必要になる。
それを稼いできてくれているのに,何か文句をいうのは,自身の我侭だと,キラは思う。
「そんなの,『仕事と僕と,どっちが大切なの?』って聞いてるものでしょ?」
笑いながら言うキラと反対に,アスランの顔はキラを見つめていた。
寂しそうな顔で。
「俺,もっとキラに甘えてもらいたい」
「へっ」
何を言ったのか,と思わず言ってしまったことばに後悔をしてももう遅い。
「俺に甘えるのは,女みたいで嫌か?」
言った声音は寂しそうで。
「違う,アスラン。僕はアスランに甘えたいとか甘えたくないとか,考えたことないよ?」
自分の大切なひとに,しかも自分の所為で相手を悲しませたくないのは,恋人としては当たり前だろう。
「じゃあ,どう思ってるんだ,キラ?」
尋ねる瞳は,揺れている。
「やっぱり,大切なひとには負担をかけたくないよ?だいすきなアスランに」
自分の気持ちがどうすればアスランに伝わるのか,全くわからなかった。
それでも,自分の気持ちをはっきり伝え泣ければ,きっと,これからもずっとこのままになってしまう。
「アスランみたいに,何か目に見えるものであなたと守ることは僕には出来ない。その代わり,メンタル面では迷惑をかけたくないよ,だから」
言うと,アスランはキラの頬をつかんだ。
「俺,もっとキラに我侭いってほしい。もっと甘えてほしい」
一呼吸おく。それから,アスランは話し始めた。
「俺たちはやっぱり世間に認められた関係じゃないから,キラには凄く迷惑かえてると思う。
 それに,男と女みたいに籍を入れることも出来ないし,何かそうやって繋げるものがない。
 それに,いつキラに何が起こるかわからないし,俺にだって何か起きるかもしれない。
 あの時こうすればよかった,って後悔するのは,もう嫌なんだよ。あの幼いときみたいに悔やむのは」
ふたりが,幼かった頃キラは体を弱くしていた。
いつも一緒なんだから,明日でもいいやと思っていたら,キラは別の病院に移らなくなり,一時離れ離れにならなくてはならないときがあったのだ。
ふたりが一緒に過ごしている時間に比べれば微々たる物ではあるが,それでもその時間はアスランにとって永遠にも等しいものだった。
ひとりでいるとき,あの時にキラとしれおけば,と思ったこといくつあるか,知れない。
そんな後悔の念にはもう襲われたくない。
「俺はずっと,キラに甘えていて欲しいし,もっと我侭だって言って欲しい。
 絶対負担なんてことはない。俺はキラと一緒に居れるだけで元気になれるから」
そう言って。風に吹かれて冷たくなったキラの体をもう一度抱きしめる。
ね,とキラの耳元で言うと,微かにキラの頭が動いたように見えた。








僕,アスランと居れて,嬉しい。
今,この瞬間が幸せだし,今という時間も幸せ。
こんなになると,ずっとずっと幸せに感じるよ。
父さん,母さん,俺今すっごい幸せ。

また会いに行くからね。
お菓子と花を持って。












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