さくら






急にキラが部屋に入ってきたかと思えば,急にそんなことを言い出した。
「寒いよ?」
今日は最高気温が7°。最低気温がマイナスまでになっている。
寒い12月。
一応尋ねては見たが,キラは知ってるよ,それ位と言う。
「寒くてもいいんだな?」
もう一度念を押すように尋ねると,大丈夫,だと言いたげに大きくうなずいた。
キラは気候の変化に弱い。いや,弱いとはいわない。あまり我慢が出来ない性格なのだ。
暑い季節に一緒に出掛けようものなら,キラはすぐに「暑い,暑い」といいまくる。
寒い季節も同様。
だから,まさかキラから出掛けよう,なんて誘われるとは思いもしなかった。
まぁ,でもキラだって,何が重要な用事があれば出掛ける。
今回も何かあるんだろうか。
目的地は聞かず,アスランは出掛ける用意を始めた。






「僕も用意してくるっ!」
と,大きな声と,どたどたと廊下と階段を走るキラを見送ってから数分後。
玄関で再び,顔を合わせた。
「ちょっと,キラ」
呼びかけると,「何?」と寄ってきてくれる。
アスランは,キラのマフラーを付け直してやった。
「こうしないと,隙間風が冷たいぞ」
マフラーがありながらも,何も巻かずに,そのまま首にかけただけというそれを何度か回して,後ろで蝶々結びをしてやる。
キラにとっては,それでも十分暖かかったのかもしれないが,見ているこっちは,暖かさを与えるものとして,使われているのか使われていないのかさっぱり分からなかったのだ。
そうして,キラの手を引いてから家の鍵をかけて,アスランは外へと出た。









冷たい風が,キラとアスランの身体をびゅうびゅうと吹き抜けている。
家を出て数分後は何も言わずに,首を竦めていたのだが。
それも束の間,キラは通り行くも無視して大声で叫んでいた。
「さーぶーいィーーーー」
大声とはあるが,北風で幾分か吸収されている。
「さーむーいーよぉー」
手袋も,マフラーも,コートもしっかりと着込んでいるのに,どこが寒いのかアスランにはさっぱりと分からなかったが。
それ以上に分からないものもある。
「ところでさ,キラ」
「さーむーいー,何,アスラン?」
「何処に向かってるんだ?」
キラの進む方向へ自分も歩みを寄せているが,何処へ向かっているのかは全く検討もつかない。
「内緒」
「別に教えてくれてもいいだろ?」
「着いてからもお楽しみ」
と,キラは一向に口を開くことはない。
寒い,寒いと飽きることなく言い続けているが。
「どうして,夏は暑くて冬はこんなに寒いのー!」
訳もなく叫んでいるのだろうが,それを律儀に答えるのがアスランでもある。
「位置的に仕方がないんだ」
それから云々勳々話すアスランに,キラはうんうんと唯相槌を打つだけだ。
「引越ししようか?」
そうすれば,年中穏やかな気候な土地で快適に暮らせるだろう。
そう,キラに伝えると,それは嫌だと言う。
どうしてか,と尋ねると曖昧な返事が返ってきた。
「じゃあ,キラはどうしたいんだ?」
キラの言わんとすることがわからず,アスランは端的に尋ねた。
「別に,何かしたいって訳じゃないんだよ?ただ,こうやって寒いーって叫ぶのが恒例な気がするだけ」
えへへと笑うキラに,アスランは言葉を返すことはできなかった。
変わりにでたのが,ため息。
そんなアスランにキラがねぇねぇと呼びかけるのだから,疲労の色を伺わせる言葉が出てしまった。
「何?」
言うと,キラは見てっ!と弾けたような声を出した。
見て,という方向をアスランが目を向けるとそこは見覚えのある,とても記憶の中に鮮やかに残っている場所だった。
「ここ・・・・覚えてる?」
恐る恐る尋ねるキラに,覚えてるに決まっているさ,と返すと,彼は安心したような顔になった。
覚えているも何も。ここは,キラとはじめて出会った場所だ。
「このさくらの木がさ,綺麗だったよね・・・」
今は,これからも春に向けて蕾がぽつ,ぽつとついている。
「ああ。桜が舞って,キラの頭の上に沢山ついてた」
手袋ごしに,キラは桜の太い幹に手をあてた。
「さくらはね,ふゆが寒ければ寒いほど,その寒さに耐え抜いた木はね,とっても綺麗な花を咲かせるんだって。
 今年もうんと寒いから,今度の春にはちゃんと綺麗に花が咲くのかなって思って・・・・」
キラはさくらの木を見上げた。
大きな,大きな,いのち。
「さくらが咲き続けるように,ぼくたちもずっと一緒に居れるといいね」
ぽつんと呟くキラに,アスランは言った。
「大丈夫。ずっと一緒に居れる。俺は信じてる。何があってもキラと一緒に居れる方を選ぶから」
力強く言うアスランは,そっとキラの手を握った。


これからの未来を,ふたりでつくっていけるように。
これからの未来を,ふたりでしあわせにできるように。









キラはずっと,このアスランと出会ったこの町でずっと暮らして生きたいと,あの時言っていたことに,それから少ししてから彼は気付いた。
寒い,暑いとは言うが,やたらめったらなことを言っているわけではないのだ,彼は。


ずっとキラのことを守るから・・・・。


そう,思い出さくらの木の前で誓う,アスランがいた。










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