星々の宴 男が男を好きになるなんて おかしいのだろうか。 |
暗闇に星の輝く空の下。 町の光の入らない,花の咲き誇る庭の前を歩いていた。 薄手,しかし王族しか持たないような上等な衣服を身に着けている。 顔立ちはすっきりとしていて,美貌という言葉はこの青年のためにあるようにも感じられる。 光のない道を歩き続けること約半日以上。 家という家を一軒も未だ見てはいない。 花の続く道を歩いていると,やっとのこと小さな,こじんまりとした家を見つけた。 時間をしる術も,体を一休みさせる術も持たない青年は,一晩その家に泊めてもらうことにした。 ピンクの,長い髪をした可愛らしい女性が,快く部屋へと招いてくれた。 「本当にありがとうございます」 突然の来訪者に嫌そうな顔をするわけでもなく,食事までテーブルへと並べてくれた。 いつも食べているような,堅苦しい食事ではなく,暖かい家庭で作られていると感じさせてくれる食事をテーブルクロスの上へと並べてくれた。 「あなたは,タツミ族の方ではありませんか?」 笑う女性は,自分の名前はラクスだと告げた。 「あ・・・・・え,はい」 あまり知られたくないような気もしたが,ラクスが言っていることが間違っている訳でもない。 笑みを浮かべたラクスの表情に悪気はないようにも見えるが,しかしその顔の奥にあるのは笑いながら腹の奥には黒々したものがあるようにも見える。 アーク・タツミは,冷や汗を握り締めた。 「自分の,これから立つ位に,苦しくなられたのですか?」 どこまでこの可愛らしい女性は知っているのだろうか? ―――いや,女性ではなく,悪魔か・・・・・・・。 「いえ・・・・・あ・・・・・違う意味での立場が」 父が死ねば,次に王として国を治める物となるのはアークとなる。 辛いといえば辛いが,これよりも辛いものがあって,思わず逃げ出してしまったのだ。 「では・・・・・・・そうですね。恋人関係,なんかは如何でしょう?」 思わず口に含んだ程よい暖かさのスープを吐いてしまいそうになり,アークは必死にそれを止めた。 「え,あ,まぁ,そういった所です,はい」 笑いながら話すラクスが憎く,しかし,憎みきれないオーラをラクスは持っているように感じられる。 言いたくは無いが,この女性なら偏見を持ったりしないだろうと,アークは踏み,手にしていたスプーンをテーブルの上に置いた。 「・・・・・・・男同士の恋愛っていうのは変ですか?」 言葉にするには少し時間を要したが,何とか口にすることが出来た。 思ったとおり,ラクスは嫌そうな顔をすることもなく,アークをしっかりと見据えた。 「部下の一人と,いつの間にかそういう・・・・・・関係になってしまっていて・・・・・・・体を交わしたことはなかったんですけど。 つい最近,それを求められてしまって・・・・・・。それを,隣国の知り合いに話すとそんな男同士の恋愛はおかしいと・・・・・・。 そんな男同士なんてありえる訳がない,と・・・・言われてしまって・・・・・・・・。 そうしたら,自分が本当にその部下・・・・・・を・・・・・好き・・・・・・なのか,分からなく,なってしまって・・・・・・・」 ただ,何も言わずに相槌だけを打ってくれるラクスに安心したアークはゆっくりとその全容を話し終えた。 しばらく考えているような素振りをとった後,ラクスはゆっくりと口を開いた。 「男性の方と男性の方が恋愛をするのが,おかしいことだと私は思いません。 ですが,それが認められるというのは,また別の次元のお話になります。 同姓同士の恋愛を認める方がいれば,やはり認められない方もいます。それは,仕方のないことでしょう?だって,人間は皆それぞれ違う思考を持つ生き物なのですから」 ラクスはここで一言区切り,カップの花茶を口に含んだ。 「それに,その恋愛は貴方自身のことでしょう? その隣国の知り合いの方のお話ではありませんわ。あなたが,あなた自身が選んで道をとることです。 永遠という道を取ってしまえば,これから先,きっと苦しいこともあるでしょう。ですが,愛に勝るものなど,何もないと,私は思います」 そして,彼女はにこりと笑った。 それから,アークは客間に通された。 ベッドはしっかりとメイキングされており,部屋にはバスルームまで着いている。 有難くそれを使わせてもらい,体をさっぱりとさせてから,皺ひとつないベッドに体を潜り込ませた。 普段全く歩かない分,これだけも歩けばすぐに眠りにるくだろうと思っていたが,なかなか瞼が落ちてくれない。 アークは天井を見据えて,ラクスの言った言葉を反芻した。 ―――自分で選ぶこと ―――愛に勝ることものは,何もないこと しかし,考えても考えても,いまいち,しっくりとこない。 眠れなさもあって,アークは客間を出,庭先に咲いていた綺麗な花を観賞することにした。 色とりどりの花はきっと,ラクスが管理しているのだろう。 どの花も,茎がしっかりしていて,そう簡単に倒れそうに無い。 大きく開いた緑の葉は,陽が出ているときにはたくさんの日光を吸収しているのだろう。 ひとつひとつの花を愛でながら,ラクスの花への愛情の表れに感心していると,後ろで人の気配がした。 ふりむくと,そこにはブラウンの髪の毛の少年が立っていた。アメジストの瞳が印象的だ。 この辺りに家という家はない。来ているナイトシャツから,ラクスと一緒に住んでいることが分かった。 「寝れない?」 砕けた言葉を使う少年の顔の整い具合に,少々言葉を失ってから,問いかけに頷いた。 「じゃあ・・・時間つぶしに僕の話を聞くのはどう?」 無邪気に笑う顔を見て,断ることはできないと認識すると,顔を縦に振った。 「少し前に戦争があったの,覚えてる?」 「ああ,勿論。トレジャスで起きた・・・・・」 ほんの1年前に終結した,戦争だ。 「その戦場で戦っている人には,スキな人がいたんだ,同じ戦場で戦ってる人。 男同士でね,告白するのをどうしようって迷ってたみたい」 同性同士―――自分と同じ状況だ。アークはこっそりと胸のうちで思いながら,少年の続きの言葉を待った。 「でも,迷ってる時間なんて,無かったんだ。戦争が激しくなっちゃって。それで,その男の人は,スキな人に告白したんだ。 スキですって。でもね,その告白された人は,同性同士がスキになるのはおかしいっておもちゃって,振ったんだ。 でもね,どの男の人は,スキな子のことを諦められなくてね。いつも,視界の中にその子をいれて,戦っていた。 ある日・・・・ふっとその好きな子を見たら,とっても危ない状況でね。 思わずそのスキな子を助けに行った。 変わりにその男の人がそのスキな人の盾代わりに」 笑って話していた少年が少し俯いた。 そこに笑みはない。 「結局その男の人は死んじゃった。それでね,守ってもらってた人は,その男の人が死んでから気づいたんだ。 本当は,自分もその人がスキだってことに」 自分の頬に冷たいものが伝っている事に,アークは気づいた。 いつの間にか涙を流してしまっていたらしい。 それに気づいた少年は,ゆっくりとアークの頬に指を寄せ,その水を拭う。 「泣いてくれるんだね。あいがとう」 その少年は,悲しそうな顔を必死に笑いに変えた。 無理やり作った笑みは見ていると痛々しくて仕方がない。 それからもう一度 「ありがとう」 と言うと,光になって少年は消えた。 アークが手を伸ばしたとき,少年が座っていた所に残されていたのは小さな光の粒たちだった。 小鳥の声が聞こえる,朝。 アークはしっかり身支度をしラクスの家を後にしようとしていた。 「昨晩は本当にありがとうございました。部屋を貸していただいただけでなく,お話まで聞いてくださって・・・」 「いえ,構いませんよ。それより,自分で道を選ぶことは出来そうですか?」 「はい,ちゃんと選べると思います。あと,・・・・・アメジストの瞳にブラウンの髪をした少年って,知っていますか?」 あの時はとても驚いたが,話してもらったあの話で,心の中がさっぱりとしたのだ。 彼は一体誰だったのか。お礼は出来なくとも心の中で手を合わせたい。 ラクスが知っているのならと思い,話をしたのだが,当の彼女はまぁまぁと驚いた声を上げていた。 「どこで会ったのですか?」 「庭先なんですが」 そしてアークは,昨日,少年から聞いた話を全てラクスに伝えた。 「それは,きっとキラですわ」 嬉しそうで,だけれど悲しそうな表情。どちらともとれなくて,アークはどう答えたらいいものかと瞬じて迷う。 「キラ・・・・・・・?」 「キラは振ってしまったのですよ,相手の男性の方を。 戦場から戻ってきて,ずっと泣いていました。僕も好きだと伝えられていたら,と」 結局キラは精神的なこと―――その男性のこと―――に心も体も疲れきってしまい,亡くなったのだそうだ。 「あなたは,キラのような後悔をするようなことがないようになさってくださいね」 そう言って,彼女は笑った。 部下で,そして恋人である厚みのある胸に抱かれながら,アークは考えた。 彼女はずっと笑っていた。 しかし,心の奥では笑えていなかったのではないだろうか? あの,毒舌を吐いていたラクスでも,やはり苦しいこともあるのだろうか。 今度は,自分が彼女の道を少しでも照らすことが出来れば,そうアークは思う。 大切な,誰のかわりにもならない,恋人の腕にしっかりと抱きしめられながら。 |
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