知らない世界。3 |
「こんにちわ,ミハウ」 からんからん,と涼しげに鳴るドアベルを潜り,声を掛けるといつものように返事が返ってくる。 「いらっしゃい」 開いているカウンター席のひとつに座ると,キラはテキーラを注文した。 「いつものカシス・ソーダ?」 「お願い。」 頷くと,ミハウは手際よく作業を始めた。 しかし,手はしっかりと動きながらも,口は止まらない。 いつみても器用な人間なんだなと思う。 客商売なのなから,こういうのは普通なのかもしれないが,キラには到底できない業である。 「今日はどうしたの?」 軽くステアをしながら,悪戯っぽい笑みを浮かべている。 「ん? 今日は待ち合わせ。」 「誰と? もう見つけたの?」 この間は落ち込んでいたのにね,とこれまた意地悪そうに彼は呟く。 人が悪いな,とキラも笑った。 「この間のひと」 「この間って・・・・・・あの濃紺の髪の?」 「うん。」 笑ったミハウの顔が少し強張ったのをキラは寸でのところで見落とした。 「あのひと,ゲイじゃないでしょう?」 言外に,苦しまないの,と尋ねられているのはキラにも察せられた。 「んー,多分ずっと女のひとだったと思うよ。 ゲイじゃないけどバイでもないと思う。」 「・・・・・・分かっているのね」 出来上がったテキーラ・カシス・ソーダを,ミハウはキラの前に差し出した。 「僕が思うには・・・・・・いい加減なひとではないだろうから,今まで見たいな理不尽な理由でどうにかなったりはしないと思う。 どうなるのかな・・・・・・」 やはりキラにも先行きは見えていないらしい。 遠い方に視線を流したキラを,ミハウは心配そうに見つめた。 キラに分からないようなことが自分に分からないのだから,ここでキラと同じように悩んでも無駄であろう。 そう思って注文されたカクテルの材料を取り出すミハウの手は再び動き出す。 キラの母と親戚関係にあたるミハウの家が少年を引き取って,それからまともみ彼が幸せそうな表情を見たのは,指折りの数しかない。 微笑みはいつも寂しげで,儚い。 居心地が悪かったろうミハウの家をキラが早いうちから出たのは,いとも容易く納得できる。 家族の色が濃く出ているミハウの家は決してキラを蔑ろにしたわけでない。 しかし,どう接すればよいのか分からなかったのだろう。 それを敏感なキラは感じ取ってしまい,それからは溝が埋まることはなかった。 屋根の下に住んでいるはずなのに,暖はすぐそばになるのに,まるで氷しかそばにないような,そんな色をさせて。 長い月日を孤独に過ごしても,決してそれに慣れる事はないだろう。 ひとりしかいない世界の中に,もう長い間,彼はひとり佇んでいる。 いつ,この世界が暖かいことをキラは知るのだろうか。 ひと肌が何にも変えられない位暖かいものであるということを。 暖かいものを得るには苦労は付き物である,それを彼は乗り越えることが出来るだろうか。 自分の知らないところへ進むのは,とても勇気がいることだ。 しかし,待っているのは――辛い――,だけではない。 キラにはそこへ行くことが出来るのだろうか・・・・・・。 もう幼い頃からキラを見ているミハウは,どうしようもない気持ちをため息にひとつ,のせた。 ―――知ってるよ・・・・・・ キラはぽつりとこころの中で呟いた。 アスランが今まで女のひとと居て,これからどうなるのかなんて全然見えない。 たまたま自分が,あの瞬間に居合わせていたから,出会うことが出来た。 そのときに出会うことが出来てよかったと思う。 けれども,これからは一体どうなるのか。 はぁ,と息をひとつ吐く。 あの暖かい腕がキラを暖かくするのだ。 それを,どのようにして忘れようというのだろうか。 きっと,自分から離れていくだろう。 これほど辛い,と思ったのはあの時以来た。 母さんが出て行った時。 「うぁ,ぁん・・・・・・」 ひっきりなしに漏れるキラの喘ぎ声が部屋の中に消えていく。 シティホテルの一室は淫猥な空気に包まれていた。 ちゅくちゅく,と繋がったところから音が響く。 「もっと・・・・・・ねぇ,あン」 向かい合ったかたちで抱き合っているキラの手はアスランの背中へと抱きしめられている。 しかし爪は決して立てないように,強い握りこぶしを何度も意識して握り直す。 腕に力を込め,寸分の隙間もないようにキラは自身の身体とアスランの広く硬い胸をぴったりと合わせた。 「キラ,キツイ・・・・・・,もっと緩めないと,出来ないよ」 互いに額に汗を浮かべ,その粒を散らしている。 体力を使っているであろうに,それでもアスランは悪戯っぽい姿勢を崩さない。 それが悔しいような,自分でも分からない分からない焦燥に包まれ,キラは必死に力を抜いた。 「あ,ひゃ・・・・・・アスラ,ン・・・・・・」 抱きしめているはずなのに,今すぐ消えてしまいそうな気がしてとても怖い。 母さんが出て行った時のように,知らない間にいつの間にか消えてしまいそうで。 必死に目を凝らしてアスランの表情を見,身体でアスランを感じていても,それは永遠ではなく。 「いい,キラ?」 優しい瞳の色がそこにある。 吸い込まれそうなほど,暖かい彼の目にキラは涙が出そうになった。 「ん,いい・・・・・・もういく,だめ・・・・・・いっちゃう」 「俺もイクから」 今にもはちきれそうな陰茎をアスランの指が触れた途端キラは果てた。 「ひぃあぁぁ」 そっと撫でるように細くきれいなアスランの指が動めくことも,快楽のひとつとなってキラは背中を反らせた。 「・・・・・・ン」 それから入れ違うようにアスランの陰茎も中で果てた。 動くことが億劫なキラを抱き上げてアスランはバスルームへと足を向けた。 程よい暖かさに温度を調節してから浴槽に湯を張る。 その間にアスランはキラの身体をスポンジで洗った。 そしてそれは,出されたままである穴へと指を伸ばされる。 「やっ,やだ」 それを遮るように,キラはアスランの腕の中で身体を捩った。 「どうして,キラ自分で出来ないだろう?」 からかい口調ではあるが,その瞳の奥に潜むのは柔らかい色で。 それがあまりにも人肌にあたたかしく,そしてとてもキラには悲しく思えた。 |
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