そのココロの中に住み着くもの。 |
あれは,学生の時だった。 付き合っていて,どの時は,本当に相手のことで世界はいっぱいだった。 すきで,スキで,好きで。 何にも変える事が出来ない。 そんな風な考え方に一直線に突っ走っていた。 それでも,社会に出る準備期間が訪れたとき。 僕は,気付いた。 「すき」だという気持ちだけでは,何もならないということ。 「すき」だという気持ちだけでは,何も出来ないこと。 「だから,何で・・・・・・。 もう無理なんだって。」 何度言っても納得しない恋人――アスランに苛立ちを覚えて,幾分か荒れた声が喉から出てきた。 「無理じゃない。そんなことないから,な,キラ?」 無理だと言い張る僕に,アスランはそうではないと言う。 平行線のままの互いの言葉。 今まで,アスランが強く言うと,まぁいいかと流されてきた僕だったけれど,こればかりは譲れなかった。 アスランの将来が掛かっているのだから。 ―――――いい加減,彼女のひとりでも連れてきてくれたらいいのだけど・・・・キラ君は何か聞いていない? ―――――何か言っておいてくれないかしら?彼女はどうなっているの,って。 まさか,同性の,しかもキラが恋人だとは知らずに,アスランの母はキラへそう語った。 がんがんと鳴り響く頭。 どろどろとしたものが込み上げる胸。 それを抱えてアスランと恋人をするにはもう無理があるとキラが気付いたのは,その言葉を聞いてからだった。 有名なザラ家の血筋を絶やさないためには,自分自身は邪魔になると理解したキラは別れをアスランに繰り出した。 「そろそろ別れようか?」 その言葉をアスランに伝えたのはいつだっただろうか? もう,二つ目の季節が巡ろうとしている。 平行線を辿る言葉。 しかし,それにももう終符子が打たれようとしていた。 「いい加減に海外に出るんだから,将来の事も考えなきゃ」 「将来なんか,キラが側にいれば十分だ」 海外にまでアスランは付いて来いと言うが,そんなことは到底無理な話だ。 いい加減,自分の我侭が通らない年になっているのは,有名な跡取りとなる上で,しっかりと弁えているはずなのに,とキラは思う。 離れたくないのは,自分だって一緒だ。 しかし,それは現状として許されない話だ。 まだその温もりと手放したくなくて,暖かな胸に縋ろうとする自分を叱咤しつつ,しかしそんな態度はおくびにも出さずキラは言った。 「いい加減にしてくれない?」 いつもより幾ばくか冷たいキラの声に,アスランは戸惑いの表情をみせる。 「同性なんて報われないだけなんだよ? そんな人生の遠回りにしかならないようなことをいつまでもだらだらしていたくはないんだよ」 作られた言葉と声音にアスランは気付く余裕もなく,目の前で冷たく接するキラを見つめた。 「キラ・・・・・・・?」 「分かった,アスラン? いい加減に,止めよう」 偽者の表情と声音をつくるのは得意だったから,きっとアスランにはバレないだろうとキラは考えた。 しかし。 そんなツクラレタもので惑わさせてしまう自分がとても卑しくて,汚く見えた。 絶対に,スキな人の前では見せたくなかったのに。 しかし,状況が許さなかった今,他の手立てはなかったのだから仕方がなかった。 そう無理やり思い込み,しかしアスランへの恋心を懸命に抑えながら,キラはアスランと別離を道をとった。 どうやら,ふらっと意識が飛んでしまったようだ。 目の前には,PCとプリンターがあるのに,自分自身は過去の記憶に居た。 こんなことでは駄目だ。 そう思いながら,キラはタバコに手を伸ばした。 仕事上,タフな体にはなったが,それでもどうしても厳しい時がある。 そんな時は,ゆっくり体を休めればいいものをそこで輪をかけたように使うから,ワープするのだろう。 もうそろそろ潮時かなと思いながら,キラはタバコをふかした。 部屋には,長時間稼動しているパソコンのファンの音と,熱を持ったCPUを冷ますためためのごく僅かなモーターの音が響く。 キラはネット上で情報屋として働いていた。 もちろん得意分野を生かせるPC上。 主に,大きな顔をして言うことが出来ない「情報引き出し」をしている。 目標としたサーバー上のウェルノゥン以外のポートをしらみつぶしにし,アクセスを確保。 しかし,そこからのガードが硬い。 体の疲れも重なって,このガードの崩れるまでの時間がとても苛々する。 一本目のタバコを灰皿に押し付け,二本目へと手を伸ばす。 パソコン付近でタバコを吸うのはよくないと自負しているつもりだが,どうすることも出来なかった。 そして,キラが三本目のタバコに手を伸ばしたとき。 キラの苛々を誘っていた難いプロテクトが崩れた。 ビープ音が鳴り響き,硬いプロテクトに阻まれていたデータがキラオリジナルマシンに流れてくる。 手早くそれをオリジナルソフトへ移動, ダウンロード元への侵入経路が分からないようにスプーフィングした上に,幾重にも落としたプロクシからネットを遮断し,プリンターを稼動させ, すばやく取り込んだばかりのデーターを出した。 データーに目を通す。 たった3枚のデータを出すのに,かなりの時間を所要したが,これがキラの仕事だ。 データーの内容は「アスラン・ザラ」についての生まれから何から何まで書かれていた。 下の方に目を通せば,ビアータ・エマーソンと結婚したと書かれていた。 仕事をボスへと届け,そしてキラはやっとベッドに横になった。 仕事で,まさかアスランについての事が回ってくるとは努々思ってなどいなかった。 ある意味,引きこもりともいえるキラの仕事は,世間からの情報は自発的に取り入れようとしなければ,置いていかれてしまうものだ。 世間の様子をつかもうとも,友人たちと連絡を取ろうともしなかったキラは勿論,世間から取り残される形となっていた。 結婚・・・・・・。 キラさえ居れば,将来なんていらない。 キラの他に恋人なんていらない。 そんな言葉はもう,アスランの中には何一つとして残っていないのだろう。 残る,といえば性格の悪い奴がいたな,という位のものだろう。 悲しく思ったが,自分にそんな権利はないのだなと思うと自嘲が込み上げてきた。 スキだという気持ちは,あの時だけでも伝わっていただろうか? スキだと言いながら,最後には思いっきり冷たいことを言ってアスランを傷つけた自分。 今,アスランがシアワセであることを願わずにはいられなかった。 押し込んでいた,アスランへの恋心を<今日だけは溢れさせてもいいだろうかと勝手に甘えたことを考えながら,キラはベッドに大きな染みをいくつもつくった。 ―――――――・・・・・・・ごめんね,アスラン・・・・・・・・・・ずっとスキ・・・・・・・・・・・・・ 何度心の中で言ったか分からない言葉を再び繰り返し唱えながら,キラは眠りについた。 そうして,世界は朝を連れてやってくる。 |
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