1話 |
「あいつは一体,何人に手を出したら,気が済むんだ!!」 客人を送るために,玄関まで行ったイザークは,先方が帰った途端,アスラン名義の,豪邸の部屋の一角で怒鳴り散らした。 「まぁまぁ,落ち着けよ」 イザークを宥めるのはディアッカ。 しかし,宥めていても,イザークに同意する意見も忘れない。 「アスラン,女癖悪いしな。けど今更だろ?」 「そんな事は分かってる!分かってるさ!!けれど,この現状は何だ?何で俺が女を宥めないといけない?」 「違う違う,宥めたのは俺だって」 大体、イザークだけで相手を宥めることが出来るわけもない。 相手側でさえも相当爆発状態であるのに、それをイザークが火に油を注ぐような物言いをするのだから、大抵、そのなだめ訳をせねばならず、しかも殆ど女と話しているのはディアッカのようなものである。 しかし,そんなディアッカの突っ込みにも反応しないくらい,相当イラついているらしく,今日のアスランへの言葉は怒気が2割り増しだ。 「本当に・・・・・今日という今日は会社に電話してやる!!」 「ちょ,ちょっと,それは駄目だから!!」 必死になってイザークが電話を掴もうとするのをディアッカは阻める。 アスランには,女のことで逐一電話をするなと固く言われているのだ。 一応雇用者であるのだから,という意識ディアッカにはあるが,イザークのは欠片も残されていないようで。 「こんな時にあいつに言わないでいつ言うんだ!!!」 「あーもー分かったから落ち着けよ?な?」 そう言いながら,ディアッカはイザークの頭の上にキスを落とす。 「な?我慢が必要だ,イザークには・・・・・」 「・・・・・」 そうして,ディアッカは10歳も年下の恋人の怒りを納めさせることに成功した。 家のインターホンが,夕方,食事を作っている途中に鳴り響いた。 この家には,滅多な事がない限り,突然客は訪れない。 用事のある客にはすべてアポイントを取っているから,この時間帯に誰かが来るということは,まずないのだ。 だとすれば、やってくるのは、あの女扱いの超悪い、雇用主関連の人間だろうか。 今日は昼間にも突然の来訪で、嫌な思いをしたばかりである。 あのキンキンした声と、攻め立てる捲くし立てた声を聞いていて、気分がよくなるわけでもない。 出来るならば今日はもう係わり合いたくもないというのが本音であるが、無視するというのもどうかと思う。 仕方がないと諦め、ディアッカは夕飯を作る手を止め、玄関の方へと向かった。 美しい模様の施された銀色のノブを開き、どちらさまですかと声を掛ける。 こんな時間からやってくるのだろうから、仕事前にとやってくる水商売をやっているようなけばけばしい女だと思ったのだが。 「こんにちは……アスラン・ザラさんの家ですか?」 線の細い声と似たような、線の細い身体。 栗色の髪はショートカットで、アメジスト色の瞳が大きく、きれいだ。 白い肌をした少年とも少女とも見分けのつかない、人間がそこに立っていた。 まるで、この家の主であるアスランの好みでないような、今までには見たことのないような人間が立っていた。 しばらくディアッカは,そこに立っているひとの問いに答えることが出来なかった。 今まではアスランに直接用があると言った人間は,主にというか全てが女だった。 化粧のケバい女から,なりたてのOLまで、それは本当にバラバラで、共通点はなかったけれど、こんなにも綺麗で純情そうなひとは、今までにお目にかかったことがない。 しかし、その客人たち、わざわざアスラン邸まで来るのだから,表面的には抑えているのであろうが,もうそれこそ形相から凄い。 きっと,見えない心中では嵐から台風,雷もでありとあらゆる爆発を起こしているのだろうと伺える程の、醜い、怒りを奥に捻じ込んだような顔をしているのだ。。 醜い女達。 しかし。 この人間は,全くといって違う。 少年に見えるとか、少女に見えるとかそういう問題ではない。 いつもの女のような怒りに漲った感情が,全くといってないように見えるのだ。 人の感情を読み取ったり,それをどう扱えばいいのかという事は,アスランの女癖の悪さからなのか,これを扱う方法に至ってはプロともいえるようになっているディアッカである。 そんな人間をいつも捌いてきたディアッカであったが、いつもの来訪者とは,あからさまに違う雰囲気とは違う客に暫く呆然としてしまった。 「あの・・・・・・・」 おずおずとした客人の声にディアッカは我に返り,あぁと声を発した。 「ごめん,ごめん。ここはアスラン・ザラの家だけど,どういった御用?」 いったいこの無垢な顔をした人間は、何用があって、ここを訪れているのだろう。 そもそも、この客人の性別は一体何なのか。 「そのまえに、ちょっと聞きたいことがあるんだけど、君は男の子?女の子?」 失礼なことを聞いているとは重々承知の上であったが、分かるとそれなりに対応も違ってくる。 女だというのならば、丁重に帰って頂く。 男だといわれたらば、それなりに理由があるのだろうから、それを聞いた上で判断しなくてはならない。 「あ、僕、男です。」 言われてみれば確かにそうなのかもしれない。 胸の膨らみもないし、そう女性らしさは感じられない。 だからといって、男だと決める根拠が見つからなかったのもまた事実である。 美しい子は、少年とも少女とも見分けがつかないというけれど、この子はその部類に入るようなひとなのかもしれない。 「えっ・・・・・・・・・・・・・」 「まっ,アスランを訪ねてるんだから,アスランに用があるんだろ? 後少ししたら帰ってくるから,家で待ってな」 絶対に違う。 醜さを出したあの女達とは違う。 そう踏んだディアッカは,この少年を家に上げることにした。 「ありがとうございます」 食事を作るのを中断したディアッカとイザークは,家の主であるアスランを待つために応接間へと向かった。 「で,お前はアスランに何の用?」 「・・・・・・」 困惑した少年の顔に,ディアッカはイザークを嗜める。 「ちょっとイザーク,直球投げるな! まず,名前を教えて貰える?」 「えっと,キラ・ヤマトです」 「んで,キラはアスランに何があったんだ?」 いきなり少年を呼び捨てするイザーク。 それを注意しようとディアッカは思ったが,言い方自体は悪くはないので,ここは敢えて何も言わないことに決めた。 ちなみに,イザークもディアッカのように人の感情を見分けたり,感じたり雰囲気をつかんだりするのは人一倍長けている。はずである。 「えっと……」 用事は何だと聞くだびに,キラは黙り込む。 触れてはいけないような話である事は,分かっていたが,それは敢えて無視をする。 「それじゃ,問いを変えよう。アスランとはどういう関係だ?」 「……」 キラは,口を開かずに黙って下を見つめている。 余程,言いたくない内密な事なのだろうか。 イザークは再び,質問を繰り出した。 「じゃ,何でお前jはここにきた?誰かに言われたのか?」 「えっと……母がここに行くと……」 折角キラが話し始めたところで,インターホンがそれを遮った。 「アスラン,だな……」 そう言って,今まで何も言わず黙って聞いていたディアッカが立ち上がる。 そして,少しの間合いの後,ディアッカは雇用者を応接間に連れてきた。 濃紺の紙に,エメラルドの瞳。 引き締まった顔は,常日頃からである。 「アスラン,ここにいるキラ・ヤマトがお前に会いに来た。こいつが誰か分かるか?」 一体何が起きたのかと,一瞬の戸惑いの後,アスラン答えた。 「ヤマト……ヤマト……あぁ,もしかしミハウ・ヤマトが関係しているんだろう?」 さらりと答えたアスランは,全てを口に出すことはしなかったが,キラが一体どういった人間であるかを,頭の片隅においていたのを引き出してきた。 夢が,こいういことが起こり得ることを教えてくれていたのか。 「ミハウ・ヤマト?」 すかさずイザークが,その名前を聞き返す。 今までに,もう数えられないくらいの女がここの家に押し寄せてきたが,こんな名前は一度として聞いたことがない。 「ミハウ・ヤマトはお前たちもしらないはずだ。俺が,孤児院にいた時にいた女だったしな」 やはり,なんの詰まりもなくさらさらとアスランは言ってしまう。 「……ミハウ・ヤマトとどういう関係なんだ?」 孤児院にいた時から,女をとっかえひっかえしていたのかと言ってやりたかったが,流石に今の場で話せる雰囲気ではない。 ぐっと喉元に押し込むと,一番問題である事をイザークは問いた。 「キラ・ヤマトはミハウ・ヤマトの子供。 そうだろう?」 はっきりと言った後で,アスランはキラの方を初めて見た。 ―――ミハウに似ている,いや,ミハウより綺麗だな アスランは一人,そんなことを思っていたが, 回りの二人は,子供を一人孕ましていたのだなという呆れた思いと,どういう理由でこの家に来たのかという先行きの見えないくらい思いを, そしてもう一人の少年は,ずっと下を向いていた。 これから波乱がやってくるかもしれない・・・・・・・そう感づく二人だった。 |
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