大切なこと。 第10話*キス |
家で一緒に居るのと,どこかに出掛けるのと,どちらがいいかと問われたキラは,どちらでもいいとアスランに返事をした。 「じゃ,外に出ようか?」 キラは頷いた。 出掛ける朝は,いつもよりとぐんと冷え込んでいた。 アスランがくれたマフラーを巻く方がいいのだろうが,キラにはどうしても手に取ることができなかった。 口から吐く息が白い。 用意を終えてから玄関へ向かうと,アスランはもうすでにそこで待っていた。 「遅くなってごめん」 謝ると,そんなことないとでも言うように,頭を振る。 「じゃ,行こうか」 一瞬首元をに目をやるアスランの瞳は,寂しそうであったが,キラは見ないことにした。 「今日はどこに行くの?」 行き先も何も聞いていない。 「今日はまず,カフェに行こうかなって考えてる」 美味しいコーヒーを用意してくれる店があるんだと,アスランは話してくれた。 「だから,朝ごはんは食べなかなかったんだ」 言うと,アスランは誇らしげに頷く。そんな彼が,キラにとってとても可愛く見えた。 歩くこと20分ほど。 何気ない世間話を興じていると,アスランの言っていた店が見えてきた。 オープンテラスには何人かの先客が楽しそうに話している。 恋人,親子。 明るい色に統一された店内には,ジャズが低くゆるやかに流れてる。 暖房が効いている店に,買ったカプチーノとクラブサンドを持って,席についた。 目の前にはアスランが座っている。 コーヒーを一口,味わうように口に含ませてから,クラブサンドを手に取る。 その何気ない所作が,とても様になっているようにキラには感じられた。 「どうした?」 尋ねられて,我に返る。 まさか,あなたに見惚れていました,というにはあまりにも間抜けだ。 「ううん,なんでもない」 笑うと,そうかと言ってアスランは再びクラブサンドを食べ始めた。 それを見て,キラも食べ始めた。 もう直ぐ,彼とは離れる予定だ。 部屋の中は着々と片付いている。ダンボール箱の山がアスランに見られてしまうのも時間の問題だろう。 一応部屋には鍵がついているが,スペアキーがもうひとつリビングにおいてあるのだ。 唯の篭城となってしまうが,意思表示にはあるだろう。 離れたくない。 こんなにもかっこ良くて,大切にしている人のことは何がなんでも守ろうとする。 気をつかってくれるし,何かとめんどうも見てくれる。 今,アスランが想う気持ちは,どこか綺麗なお嬢さんにあるのだろうか。 もう,自分ではないに違いない。 それに。 もし,想いが女性になくても,これからはそうなっていくはずだ。 少し前までのように,アスランを自分だけが独り占めするようなことは出来なくなる。 自分は男。 女性のように,彼の子孫を残すことはできない。 そして,世間の目もまだまだ冷たいはずだ。 男同士,というものは。 まして,アスランの母があんなにも電話をしていたのだ。 まさか,彼女が,自分の息子が結婚しないということを受け入れる,とは考えることが出来ない。 やはり,いずれにしても離れていかねばならないのだ。 自分たちは。 決してアスランが「一緒に居たい」と望んでも。 周りがそれを許すことは決して無いだろう。 そして,アスラン自身も,いつかきっと気付く。 男といるより,女性という方がいい,ということに。 自分がアスランを想う気持ちは,ぐしゃぐしゃになっても。 それが,苦しいほども思いであっても。 捨ててしまわなければ,いけない。 いつの間にか,曲がクリスマス向けのものになっていた。 朝食を食べてから,次に行き着いたのは,大きなデパートだった。 「何か買うものでもある?」 特に買うようなものは見当たらないような気がして。 しかし,進む道は思いもしない売り場だった。 「これ」 笑って言うアスランが指差すのは,クリスマスツリーが売っている場所だった。 色とりどりのライト,それから沢山の飾りが置かれている。 ツリーも大きなものから小さなものまで置かれている。 「家に無いだろ? ひとつあるといいかなって・・・」 照れたように言うアスランに,キラはいいね,と相槌をうった。 「本当に色んなものがあるから,キラと一緒に決めたかったんだ。それから,クリスマスプレゼントも」 「えっ,くれるの?」 「当たり前だろう。何かリクエストはないか?」 今のアスランには,大切に想う女性がいるのではないのだろうか? それとも,未だ,今は自分なのだろうか? 「キラだけに,うんと・・・・買ってあげたいんだが・・・・・・」 何を買ったらいいのか分からない,と頭をかいた。 「・・・・・・・・・・・」 遠くもない日には,家を出る予定を企てている。 アスランには知られないように。 もう物件も見つけ終わったのだ。後は書類の手続きを済ませればいい。 そこまで,ものごとは進んでいる。 しかし,アスランは気付いていない。 それどころか,プレゼントは何がいいかと尋ねてくれている。 ねだりたいものなんて,今のキラには買えないものだ。 そして,アスランにも買うことができない。 そして,それを願うこともキラには許されていなかった。 欲しいものなど,それ以外にないのに。 何も言うことが出来ず,キラはぽつんと言葉を零した。 「キスが欲しい」 言うと,そんなものはいつでもあげるさ,とフレンチキスをキラの唇に落とした。 キラには,たったのキスが,とても暖かく感じられた。 |
| 薄荷キャンディの全ての無断転載を固く禁じます。 All text on this web stie are copyright(C)2007- Peparmintcandy yurikaoru |