大切なこと。

第11話*想いで






その夜,キラは久しぶりに,アスランと肌を重ねた。
少し前なら,いつでもすぐそばにあったはずだと思ったのだが。
少しずつ,少しずつ,その距離は幅を広げていっている。

アスランは結局,キラに,見合いの話が来ていたことを話さなかった。
別に,それを強く問うつもりは,キラにはなかった。
仕方のないことだと。
それを受け入れなければと。
必死に,自分の思いを胸の内に仕舞う。
そして,アスランの前で笑うのだ。































事務所に行くと,そこにはニコルが居た。
「あれ,どうかしたんですか?」
事務所など,用が無ければ全く無用な場所だ。そんなところにわざわざ来ているのだから,何かあるのかとニコルは身を乗り出してきた。
「住所変更の書類を貰いに来たんだ」
「どうしたんです?急に引越しなんて・・・・・・。今住んでる家って・・・?」
「うん,マンションだよ」
言うと,益々ニコルは表情を訝しげにした。
「何か困ったことでもあるんですか?住み心地がよくて気に入ってるって言ってませんでした?」
細々としたセリフをよく覚えてくれているものだ。
それがもっと仕事面で発揮されればいいのだろうけど,と関係ないことをキラは思った。
「うん,確かに気にいってるんだけどね。どうしても出ないといけなくなったから」
思いのほか,声が萎んだようになってしまった。
それを隠すように,キラは笑った。
「・・・・大変なんですね」
別に嘘は言っていない。
実際,もうアスランと一緒に居ることは出来ないと,思っている。
ここら辺が潮時なのかもしれない。
こうしないと,自分が苦しむだけ。
「ううん,今度は会社に近いところに引越しするから。楽にはなると思うんだけどね」
言いながら,まるで自分を励ましているように聞こえてくるから,キラは言いながら笑いを漏らしてしまった。
「ど,どうしたんですか?急に」
心配そうに尋ねてくれる彼に,キラは何でもないよと手を振った。
誰からに,自分のことを話せたら,と思う。
心の中に溜まったどす黒いものを誰かに打ち明けることができれば,こんなにも苦しくはならなかっただろうに。
ニコルに話したら?
考えてみたけれど,そんなことを鷹揚に受け止めてくれるのだろうか。
考えても,今は苦しくなるだけだ。
「うんん,なんでもないよ。じゃ,仕事に戻るね」











家に着けば着いたで,やることは一杯残っている。
ダンボール箱をむやみに積んである部屋には,足を踏み入れるのは少々難しい。
片付ける物の量が滅茶苦茶に多い。
それだけ,ここに一緒に居る時間が長かったんだろう。
想いでがいっぱい詰まった部屋。
今はまだクローゼットを開ければ,服がある。壁にはコルクボードに沢山のプリントや写真が押しピンに貼られている。
仕事に追われた日々の象徴のような紙の山。
いつか,アスランと撮った写真の山。
想いでだけが山のように詰まっている。
想いでが。
思い出が。
それは,もう色褪せて,色褪せて。
線だけが残って。
そして,何も分からなくなって。
忘れていく。
それは記憶の底ではなく。
底の見えない,底の無い,沼へと。

部屋からは,うつくしいイルミネーションが輝いて見えた。














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