大切なこと。

第3話*写真







「ただいま」
無人の家に電気を点ける。
暗い部屋に明かりが灯ると同時に,何か暖かさも感じられた。
首に巻いたマフラーを取る。
白い,カシミアのマフラー。
大切なひとにもらったもの。
キラはハンガーにかけると,カジュアルな服に着替えた。

最近アスランはどうやら仕事が大変らしい。
頭脳明晰,そして入社時から見込まれているのにあいまって,こなしていかないといけないものが一日では終わりきらないくらいあるらしい。
それだけ期待されているのだから,まぁいいんじゃないかという気持ちと同時に寂しい感じもしなくもないが,やはりここは我慢するべきだろう。
休日には少ない時間だが一緒に居れるのだし,夜も稀に顔を会わせることが出来る。
それだけで,幸せだった。
お互いが,お互いだけを愛していればいい,と。
それだけが,キラのささやかな願いだ。
それさえあれば例えどんなことがあろうとも。
年末に近いといえど,まだ新しい年を迎えるまでに三ヶ月もある。
今年もアスランと一年を終えることが出来て,そして新しい年を二人で迎えることが出来れば。





秋晴れの暖かい陽が差し込んでいる。
「今日は,布団でも干そうかな。うん,そうしよう。アスラン,布団出して!」
言って,羽根布団をベランダに干してもらう。
部屋に詰めたい空気を取り込み,二人は部屋を後にした。

目玉焼きにトマト,ベーコンを添え,トーストを焼き上げると二人は席に座った。
カフェオレを口に潤し,キラは尋ねた。
「ねぇ,最近おばさんに電話してないの?」
キラが気になっていたこと。
アスランはそんなに薄情な人間であることはないはずだ。
「あ,まぁ。用件は分かってるからな。別にいいと思ってるんだ」
言葉を濁すようにアスランはトーストを齧る。
言葉を濁したアスランに,キラは首を傾げた。
「話せない内容?」
聞いてみるが,アスランは曖昧に笑った。
「頼まれごとをしたんだ」
はっきりと言ってくれない姿にこれ以上尋ねるのはダメか,と諦める。
「そうなんだ」
だらだらと聞くのは,うっとしいだろう。
「そういや,キラマフラーもう使ってくれてるんだってな」
打ち切るようにアスランが,別の話題をふってきた。
「うん,すっごく暖かいよ」
言うと,アスランは笑った。
「まだ早いだろう?これから雪が降ったらどうするんだ?」
「うん,大丈夫だよ。だってせっかく貰ったのに使わないと勿体無いよ」
「そうなのか?」
「そうなの。アスランから貰ったのに,使わない手はないからね!」













母から渡された写真の束を見て,アスランはため息をついた。
こんなものを貰っても,どうしようもない。
自分にはもう大切な人がいるのだから。
しかし,それを母に言うことは出来ない。
相手が女性だったら問題は無かったのだが,お生憎様というべきなのか,キラは男だ。
男性を家に連れて,この人と結婚しますというのは,到底出来っこない現実で。
まずは反対を喰らい,それから今以上に結婚を強要されるだろう。
酷い方向へ進めば,自分の意思などないまま親の間だけで話がすすんでいくのかもしれない。
それだけは避けたい。
キラを傷つけたくない。
大切にする,と約束したのだ。
守る,と。
ここは,自分は結婚しない,と伝えればいいのだろうが,そんな言葉だけで通じる親だとは思ったこともない。
―――どうしたら,いい?
考えられる策がなく,思わずアスランは息を吐いた。

















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