大切なこと。 第5話*大切 |
その日は曇りがちな空があった。 あの電話をまるで盗み聞きするように知ってからやってきた,アスランと久しぶりに過ごす休日。 普段なら,何をしたいのか尽きることなく考えが浮かんでくるはずなのに,今日はそうもいかない。 昨日もアスランが帰ってきたのは,夜中が回ってから一時間ほどした頃だった。 それから簡単なシャワーを浴びて,ベッドに入っていると思う。 今の時刻――朝の七時――に起こすのは,なんとなく忍びない。 寝顔はこれ以上にない位,安らいでいる。 睡眠時間を削って仕事に向かっている彼なのだから,こんな日くらいゆっくり寝かせてあげたいと,キラは思う。 それが,自分と一緒に過ごす約束をしていても。 今は寝かしてあげるべきだ。 それから,自分でどこに行きたいのかはっきり出来ないからアスランに決めてもらうといい。 そう計画を頭の中で簡単にたてると,静かに部屋を後にした。 食後の紅茶を飲んでいると,ぼんやりとしていた頭は嫌なことを考える。 アスランのこと,を。 自分は今,アスランと一緒に住んでいる。想いも交わした。 それ以上,心配などする必要はないのに。 それなのに,キラの中を抉る。 あの電話が。 アスランは一体,どういうつもりなのだろうか。 あの電話をちゃんと断る? もし断らなかったら? 話さないと何も変わらないことくらい分かっている。 それでも,彼に尋ねるのは怖かった。 もし,断らないと言われたら? そう言われてしまったら,きっと自分はもう人ではなくなってしまうかもしれない。 こんなにアスランが大切なのに。 その時,自分はどのように扱われるのだろうか。 もういらないと捨てるのだろうか? 愛人のように? それとも? 捨てられるくらいなら,愛人の方がいい。 まだ,情をかけて貰っているようだから。 結婚をもしアスランが選んだとするならば。 きっと相手の女性はとても幸せになるはずだ。 何よりも相手に気を遣い,大切にしてもらえるのだから。 そして,アスランのおばさんたちだって,自分の息子が落ち着くと,やはり安心するだろう。 もしかしたら孫の姿を楽しみにしてるかもしれない。 そうすれば,自分が我慢するだけですむ。 もし,アスランが自分を選んだなら,相手の女性は悲しむだろう。 きっとおばさんたちもアスランに詰め寄るに違いない。 そうなれば,自分以外のまわりの人間が苦しむことになる。 そういう考え方をするならば,彼が結婚を選ぶ方がきっと物事は安泰に進むだろう。 でも,自分は苦しむ。 本音を言えばアスランと離れたくなんかない。 ずっと胸の中で抱きしめてもらえたら,なんて幸せだろうと思う。 でもアスランはそうではなかったら? 男と一緒になることで,世間からいい目をされないことが嫌だという理由で自分を手放したら? 男とは遊びのつもりで,本当は女性の方がいい,と言われたら。 結局は,周りでもなんでもない。 もし,でもない。 唯,キラが耳を傾けなければいけないのは,アスランの言葉。 他の人がどうのこうの言うのではなく,アスランが告げる言葉で自分は動かないといけなくなる。 そして,アスランの負担になると思われる状態でも。 何となく予想できる話に,キラは自嘲せざるを得なかった。 結局アスランが起きたのは昼を過ぎてちょっと。 ごめんと謝るアスランに,キラはそんなことはないよと言った。 アスランの身体が一番大切だから。 |
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