大切なこと。

第11話*壁





喋りだすと言葉があふれた。
もやもやしていた気持ちが,はっきりしていなかった気持ちがすっと出て行く。
「ここに,未だいないといけないような気がするんです。
 ・・・・・・上手く言葉に出来ないんですけど。」
「では,思っているだけではなく,実行に移してみては如何でしょう。 あなたには差ほど難しいことではないと思いますが?」
にこりと笑う彼女は,コーヒーに口を付けた。
「実行・・・・・・」
「人生にはいつも平坦なものではありませんわ。 ひとは波に飲まれてこそ,大きくなっていくのです。
 波の数,大きさなんてものはそのひとの人生によって変わっていくのでしょうが,大きければ多ければそれほどひととして素敵になると私は信じています。
 実際,打ち破らないといけない壁を抱えているのは貴方だけではありませんわ。
 私もなのですから。」
色を正した彼女の顔から悪戯っぽい笑みが漂う。
アスランには彼女の言わんとしていることが分かり,同時に納得した。
「いつまでも子どもではありませんわ。
 私たちにだって意思というものがあります。
 それを自己主張していかなくてはいけないときが,丁度今なだけでしょう。 親のことで苦しんでいるのはきっと他にも沢山の方がいらっしゃいますわ。
 それが上手くいかなくて,その刃が自分に向かったり相手に向かったりしている・・・・・・という事件が最近多発しているようですが,子どもの頃には何とかできたとしても,何れこれを超えられないことには社会に出た時に苦しむのは必須でしょう。
 これは大きな壁となりますが,ゆくゆくは私たちの生きる糧になるのです。」
そして,彼女は微笑んだ。
「きっと,貴方は掴みますわ」
掴みたいもの,それを掴むために。
そこへの距離を少しでも縮めるために,自分自身を強くするために。
アスランは,そしてビアータも覚悟を決めた。






決断を下すとアスランは速かった。
自分のしなければならないことは一体何なのか。
遣り残しのないように,悔いの残らないように,最後へと駆けていく。
ひとつの区切りをするというのは,とても大変なことであることを,俄かに忙しくなった日々の中でアスランはそう感じていた。
会社のでは新人と呼ばれなくとも,社会に出ればまだまだ青いと言われる歳の所為でもあるだろう。
しかし,そんなことは言ってられない。
それと同時進行に行わなければならないことも重なり,睡眠時間が奪われてばかりである。
しかし,どれだけ睡魔に襲われかけたとしても,苦には感じない。
むしろ今の状況を楽しんでいるのかもしれない。

それから暫くして,ビアータからメールが入った。
少ない文面には,次の日曜日に会いたいので連絡を欲しいという旨が簡潔に,そして身体を気遣ってくれるものが見える。
内容からして,彼女なら電話を選ぶだろうそれをわざわざメールにしてくれるのも,また彼女の思慮深さなのか。
それがとても優しいことのように感じられて,アスランは口元で少し笑った。










「夜遅くにお時間と取らせてしまってすみません」
恐縮そうに謝る彼女に,アスランは否と返事を返した。
何でもないことできっとで自分を呼び出すようなビアータではないし,また,今日,彼女を見て時間が欲しいと言った理由が何なのか直ぐに察することが出来た。
待ち合わせの駅前から少し歩いて,カフェの方へ向かう。
店を潜ると,ソファの備えられている席へと着いた。
「今日は,アスランにご紹介したいひとがいるんです」
ひとが誰なのか,言わずと知れる。
「はじめまして。タツミ レイと言います。ビアータがとてもお世話になっています。彼女の我侭を聞いてもらいありがとうございました」
「このひとが,将来を共にしたい方なんです」
「はじめまして」
言葉は一応返したが,それ以上は出てきそうになかった。
男性であるはずの彼であるが,同性である自分から見てもとても美しいひとに見える。
青がかった翠の髪に銀を混ぜたように綺麗な髪に,それと同じ瞳の色。
肌はとてもきめ細かく,鼻がとてもすらっとしている。
笑顔さえも知的に写るその顔は,感嘆するほどであった。
「私もそろそろ本当のことを両親にお話しようと思います。」
アスランも頑張っているのでしょう?だから,私も立ち向かうのです,と彼女は強く言った。
「アスランに勇気を貰いましたのよ?」
「いえ・・・・・・俺が大抵話しを聞いてもらってばかりだと思うんですけど」
「そんなことないのですよ?それで,彼からお話があるんです」














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