大切なこと。

第2話*逃避





次の休みを待って,アスランは町へと繰り出した。



結局あの日,テーブルに置かれた食事に手をつけることはなく酒を腹の中に収めただけだった。
そして,次の日になってもそれに手をつける気にはならなくて。数日後匂いのおかしくなったことから,処分した。



足の向かう先はゲイが集まるバー。
陰鬱とした気持ちを抱えるには辛すぎて。憂さ晴らしが出来ればと思って,アスランは逃避という道を選んだ。
カランカランと静かな音をたてる扉を開くと,そこは異世界のような空間が用意されていた。
行き慣れているわけではないが,まるで行き慣れているかのように「ピンク」と一言告げて,カウンターへと腰を下ろした。
店内を見回す。
誰かいないか,とひとりひとりとはいかないがざっと見渡したが,心惹かれるようなひとは居なかった。
比較したい訳ではないのだが,今まで自分の傍にいたキラと比べてしまう。
本当に愛していた。
そう,胸をはっていえる。誰に臆することなく。
それでも,それに伴って彼に接することができたか,と尋ねられれば,答えは否,だ。
理由は分かっている。
自分が,彼を苦しめたのだ,と。
自分がこうしてゲイバーに逃げるように,彼も頑張りながら最終的には苦しくなったのだろう。
彼を攻める気は全くといっていい程なかった。
自分に大いに責任がある。
婚約者という,彼にとって大きな負担ともなる存在について何も話さなかった。
このことをキラに話さない限り,きっと何も進歩しないだろうと思っていた。
けれど,結局は思っただけであり,行動としては何も起こさなかった。
両親に牙を向けない自分。向けることが出来ない自分。
それは,あまりに愚かでそして悲しくも思えた。
大切な人,ひとりさえも守れない。
そんな自分が,生きていることに意味があるのだろうか?
空しさだけが胸に押し寄せ,いつの間にか置かれていたピンクをぐっと飲み込んだ。
舌で味あうことはせずに,ただ胃の中に押し込む。
苦さだけがこみ上げてきて,結局ものの数十分もしないうちにアスランは店を後にした。









そういや,キラにはクリスマスプレゼントは何がいいのか尋ねた記憶がある。
あの時。
キスが欲しいと彼は答えた。
まさか,そんなものがプレゼントでいいものかと冗談に思ったために,結局キスはしなかった。
ということは,キラにはプレゼントすらもあげることが出来なかったのか。
そんなことを思うと,やはり胸が痛んだ。
一体彼には何をしてやることができたのだろうか。
ひとときの幸せでも感じてもらえたのだろうか。
冬であるはずなのに,それでも澄み切っている空を仰いだ。
冷たい風が,鼻をツンとさせた。












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