大切なこと。

第3話*傾れ





家に帰ると,留守電が点滅していた。
内容の分かっているそれを聞く気にはならず,無視を決め込もうと,それを視界から消す。
しなくてはいけないことは,今沢山ある。
今の役職について,以前より増して仕事量が増えた。
今,しなくてはいけないと進めている仕事。
それが,キラのことをそっちのけにしてしまったのは,考えたくない事実だ。
仕事が出来るということは即ちキラのことを守ることが出来るという考えがあったというのに,結果的にはひとりになってしまった。
落ち着いて考えてみれば。
自分より家に居る時間が多い彼は,きっとこのお見合いの話を知っていたのだろう。
キラに言い訳すればよかったのか。
単誤魔化してしまえばよかったのか。
いまさら考えたところで全く意味がない。
それでも思考回路はひとり歩き出す。
多かれ少なかれ,彼が傷ついていたのは確かだ。
でも。
どれくらい彼を傷つけた?
考えても分からない。
どうすればよかった?
どうすることで,キラを傷つけづにすんだ?
いっそのこと。
彼と恋人同士という,肉体関係を結ぶものにならなければよかったのか。
・・・・・・そう思えてくる。
キラを傷つけてしまうならば恋人になんてならなければ,この恋心など伝えなければよかった。
親友という,無難な位置に居続ければよかった。
後悔が,アスランの心の中をどす黒くした。














あの時,電話に出なかったツケが今になって回ってきた。
「ほら,行くわよ」
次の休みの日。
レノアが,アスランの身体に合うようにつくられたオーダーメイドのスーツを持ってきたのだ。
「大体,今まで何度アスランに電話したと思っているんですか?
 返事のひとつもくれなかったじゃありませんか。 正式にお付き合いしている彼女がいるならば,こんなことはしませんよ。
 でも,居ないみたいですからね。
 この間,留守電を入れておきましたよ。今回ちゃんと返事をしてくれなかったら,もうお見合いは引き受けます,と」
そこまで言われて,アスランには母に反対する意欲を持つほど打たれ強くない。
反対の意を唱えるのはやめ,差し出されたスーツを着込み,部屋をでた。

行き着いた場所は,自分の家だった。
思いもしなかった場所に少々面食らいながらも,使い慣れた扉に手をかける。
「アスラン,相手のお嬢さんに失礼の無いようにしてくださいよ。父様も,あのお嬢様のことを気に入っているのです。
 お嫁さんになられるに一番の候補に挙がっているでしょう?」
淀みなく言う,彼女のセリフにアスランは唇を噛んだ。
自分に選択権があるようで,実際には皆無に等しいということなんてずっと前から知っている。
もうずっと前に諦めたはずだ。
檻を破ろうとする感情。
それでも,こういう状況に陥ると,諦めた感情が再び沸々と湧き上がってくる。
知らず知らずのうちに培われたポーカーフェイスを身に纏ってから,客間へと潜った。











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