大切なこと。 第4話*経緯 |
和装をした彼女は目が大きくすっきりとした顔立ちだった。 整った顔。 それを美人というのか。 おっとりとした口調に静かに笑う口元。 お嬢様という言葉が似合うと思った。 しかし,可愛い,のだろうが,それ以上に何の感慨も沸かない。 自分はこの女性と結婚してしまうのか。 自分のことであるはずなのに,何とも思わない。 どうにでもなれ,と思えてくる。 結局,その場で次回に会う約束がなされた。 相手方が帰った後,義父はアスランを尋ねた。 「非の打ち所がない娘さんだろう。気にいったんじゃないか?」 傲慢に聞こえるのは,自分の耳がおかしいのだろうか。 「これで,お前の将来も安泰だな。結婚式はいつあげるんだ?」 尋ねながらも,答える間を与えない。間をつくらない。 自分の考えはアスランのそれを一緒だと思っているのだろうか。 ふんぞりかえった態度を崩さず,彼は部屋を出た。 義父が家に来たのは,もう何年も前の話だ。 父親は過労で死んだ。 過労で死んだ父の代わりに来た男性は,持っているものが金と横柄な態度だけだと思う。 自分の意見ひとつ取り入れてくれない義父は,悉くアスランの人格を無視した。 そしてそれに伴うかのように,母も義父のように,横柄とはいかないまでも以前とは甚だ変わってしまった。 芯を持っていたレノアは,義父のいいなりにしかなれないような女へと成り果てた。 父が生きていた頃は,もっと幸せだったと思う。 毎日が楽しかった。 厳しかったが,たまにみせる父の優しさがたまらなく好きだった。 研究ばかりだったが,それでも時折くれる母からの電話がささやかな楽しみだった。 そんな父はもうこの世にはいず,また母も研究を放り出している。 幸せだった時の家族が一気に奈落の底に落ちたのは,少なくともアスランの心をかき乱した。 今。 家を離れてマンション暮らししているのも,義父の命だ。 「そろそろ独りだちするべきだろう」 という言葉と共に,その生活を強いられた。 だが,現実はそんなに生易しいものではなかった。 しばらくして,自分に父親違いの弟が生まれた。 兄などいない環境でその弟を育てたかったのか。 邪魔者扱いをされている・・・・・・。 今に始まったことではなかったが,それはアスランの胸の中を深く抉った。 そして。 たまに実家に帰ると,何も知らない弟が一番に抱きついてくる。 それがたまらなく可愛く,そしてたまらなく憎かった。 |
| 薄荷キャンディの全ての無断転載を固く禁じます。 All text on this web stie are copyright(C)2007- Peparmintcandy yurikaoru |