大切なこと。 第6話*相手対自分 |
「わざわざ申し訳ありません」 頭を下げ,話す彼女の言葉が部屋に静かに響く。 自分の勝手で席を設けているから,という理由で彼女自ら予約したという,高級料亭の個室にアスランは招かれていた。 今日の,彼女の姿は以前のような和装ではない。 それでも,華美ではない華やかな色で,落ち着いた格好をしている。 ブランド物であろう,身に着けているそれらは,成金のようには全く見えず,きれいに着こなされていた。 今日は,彼女から話があるのだという。 その話が終わるまで料理は運ばれないらしい。 終わると彼女が女将に連絡を入れ,それから箸を取る,ということになっているそうだ。 勝手な段取りを取って,すみませんと謝る彼女にアスランはそんなことはないよと頭をふる。 見かけはおっとりしているが,どうやら中身はそうではないのだな・・・・・・とアスランはひとりごちた。 「で,お話とはなんでしょう?」 促すと,彼女は静かに話しだした。 「お願いがあるんです」 言ってから,少しの間が空いた。 そのことばひとつでは何とも答えようがないアスランは何も言わない。 それから暫くして。 「このお見合いを駄目にしたいのです」 回りくどい言い方は一切なく,端的に告げられた言葉に,アスランは一瞬何のことか分からなかった。 暫くして,ビアータの告げた言葉を反芻してから,意味を理解した。 「何かあるんですか?」 尋ねると,彼女の頭が縦に振られた。 「貴方に言うようなことではないと思っているのですが・・・・・・。 先日,お見合いをしたばかりですが,本当は好きなひとがいるんです。 大学の教授の方です。 私が,大学に行っていた頃に講義をしてもらっていた先生なのです。 その・・・・・・恋人同士になるまでにやはり,生徒と教授ということでいろいろあったんですが,今はとても幸せなんです。 だから・・・・・・。」 小さく声が消えていく。 「こんなことを,貴方に頼むなど,本当にどうかしていると思います。 でも,譲りたくはないんです・・・・・・お願いできませんか?」 綺麗な姿勢で頭を下げられて,アスランは彼女を暫く見つめてしまった。 まさか,こんなことを頼まれるとは・・・・・・。 何を話したいのか,さっぱりと予想はつかなかったが,聞いた内容にもアスランはびっくりした。 こういう場合はどうしたらいいのだろうか・・・・・・とマニュアルのように思い出してみるが,そんなものが思い出せるわけがない。 それなら,自分の感情と理性だけで判断すればいいのだろうか。 頭を下げっぱなしの彼女には悪いが,アスランは目を閉じて考えた。 |
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