大切なこと。

第8話*気持ち





今回の見合いが自分にとって納得いかないものであるということはアスランから言うことになった。
見合いをはじめて間もないのだから、まだ今はデートをするフリ―――実際は喫茶店でお茶を飲んだり食事をして、互いのことを話し合う―――をしている。


「あっ!エンゲージリングですか?」
キラリと光るそれに目をやった。
今までに見た記憶がないのを、アスランは目ざとく見つけた。
「貰ったのはもうずいぶんと前なんですが、さすがにあんな場所で付けているのはいけないでしょう?」
あんな場所とは見合いの席のことだろう。
「よく考えたらいつも私ばかりがお話していますよね。
 アスランには、想いを寄せている方はいないんですか?」
「そうですね……いた、かな……」
どう答えるべきか。悩むようなことでは無いはずなのだが。
そう、はっきりと答えたくないのはどうしてなのか。
「振ったんですか」
「いえ、振られたんです……」
言うと、どれだけ驚いたのか、ビアータはまぁまぁと言いながら目を大きく見開いた。
「アスランが振られたんですか……信じれないような話です。
 あなたのような、顔もよくて性格もよろしい方を女性は手放さないとは思いません……」
彼女は美味しいと定評のあるダージリンを口に含んだ。
「付き合うということは、相手の中に自分が好むところがあった訳ですよね?
アスランの性格では、顔で選ぶような感じはしないですし……どんな性格の女性だったんでしょう。
 きっと簡単には見つけることができないのではないのでは?」
語尾は尋ねているはずなのに、言い方は尋ねてはいないように、アスランは思えた。
確かなキラは、顔も人よりずっと綺麗だったが、性格もずっとずっときれいだった。
そんなに簡単に見つからないひとだろう。
そして、仲の良かった親友でもあって。
仕事で帰れなくて、親友だった頃より増して向き合う時間が無くても、キラは文句も言わずに待ってくれていた。
それに図に乗ったようになった自分が相手を傷つけたのは間違いないことで。
「確かにそうなんです……俺をずっと待っていてくれたから」
言葉を切っても彼女は何も言わなかった。
黙って聞いている姿は、すごく話しやすく感じる。
「それに気付かなくて、放ったらかしにしてしまっていたんです。
そしたらやっぱり愛想を尽かされてしまいました。
家に帰ったら、電気がついていなくて、でもテーブルの上には作ってくれた料理がおかれているんです。
寒い冬だったんだが、外の気温よりも寒く感じた……」
思い出すだけでも、あの身の切れるようなおもいがする。
あたりまえをあたりまえだと思い、あたりまえをありがたく、そして振り返らなかった自分。
自分にとってもまだ新しい、苦い記憶だが、キラは自分よりももっと苦しく感じているに違いないだろう。



そんなアスランをさえ切ったのはブルブル震える携帯電話だった。
「すみません、ちょっと失礼します」
声をかけてから、席をたってから電話に出ると案の定仕事のことだった。
分かりました、と手早く電話を切って席に戻る。
聡明な彼女は仕事の関係で今から仕事場に行かなければならないというと、笑って
「気になさらないで、急いで言ってください。
 レシートはこちらの方で切っておきます」
と見送ってくれた。











ある程度は仕方がないと思う。
会社に勤めるということは、その会社の駒のひとつになるということだ。
分かってはいるはずなのに。
今は、自分の勤めている義父の息がかかっているような会社に向かいたくはなかった。












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