大切なこと。

第3話*相関





「あの、え、イザークもクリニックに用があるの?」
「キラこそ、ここに通わないといけないようなことがあるのか?」
お互いの、疑問が両者から出てくる。
それ程、ふたりとも混乱しているのであろう。
「え、うん……もう通いだしてから大分経つから……。」
自分でも、どうしてこの病院に通わないといけないのか理解出来ない。
ニコルの勧めで都市の病院連れていかれ、その病院から勧められたのが、このクリニックだった。
常に笑顔のやさしい、ラクスという名の医師が嫌いだとか、そういうのではない。
ただ、この故意に作られた箱の中で、如何にも話します、というスタイルが嫌いで、しかもこれが話し難い。
普通に、どこかのカフェやらで、気軽に話しがしたいのだ。
しかし、ラクスが言うには、それは治療的に問題があるのだという。理由は教えてもらえないけれど。
親しくなってから、クリニックとは関係なく、個人同士で会って話すときがあるが、彼女の様子はあまり変わらないように思えるけれど、どうなのだろうか。
「イザークこそ。……何かあった?」
「バカを言え。俺はこいつの病院に用があるのではなくて、こいつ自身に用があったんだ。」
「二人って知り合いなの?」
「まあ、そういうことだな。」
そうなのか。世間って以外に狭いのかな。
「ふーん。」
「では、イザーク、そろそろ私も仕事がありますので。いいですか?」
話のきりがいいところで、黙って見ていたラクスが声を挟む。
「ああ、すまないな。では、俺は失礼する。今回のことについて、再度こちらから連絡しよう。」
「ええ、ありがとうございます。」
終わったや否や、イザークは颯爽とクリニックを出ていく。
「キラ、また連絡よこせよ。」
「うん、またね。」
さらさらと、細い銀の髪を揺らしながら、イザークはクリニックを出た。

「あの、イザークと話ている邪魔をしてごめんね。ラクスってイザークと知り合いだったんだ。」
「いえいえ、キラさまは丁度予約していた時間に来ていただいただけですから。ところで、キラ。その犬は、一体どうしたんです?」
未だキラの手によって抱えられているダンボール箱を、ガラス机の上に置くように言われ、やっとのこと、子犬は安定した場所に置かれた。
何かを要求しているのか、しきりに、くうん、くうんと鳴いている。
「今日来る途中にさ、拾ったんだ。このまま、ぽんっと置かれてて。」
「それで?」
「何だか自分に似てるって思って、……飼う予定なんだ。」
「そうですか。では、名前を付けて、愛情をいっぱいあげて、大事に大事に育てないといけませんね。」
キラの鮮やかに笑う笑顔を見て、ラクスもまた笑う。
「名前はたくさん呼んであげるのですよ。」



その後、結局ラクスと話す時間はいつもより短くなった。
それはそれでキラにとっては良いことだけれど、ラクスは残念そうだった。
「次の予約がなければ、もっとキラさまとお話したかったですわ。今日の笑顔はとても素敵ですよ。」
男に素敵はないよ、という言葉を忘れずに、キラはクリニックを後にしたのだ。
その足で、向かったのが、ペット用品を売っている店だった。
餌、トイレシーツ、首輪、リードと最低限必要であろうものを買うために、歩みを急いだ。
―――ダルメシアンってよく運動するんだよね……
     餌の分量ってどうなのかな?
とりとめもないことを考えながら。













「もしもし」
「ああ、俺だ」
「私、俺、というお方を存じませんが?」
存在な物言いに少し嫌味を返すと、ふんっと電話越しに聞こえた。
「イザーク・ジュールだ。」
「あら、ご用もないのにお電話ですか。珍しいですわね。」
「……。」
この娘の前で取り繕った自分が悪かったのか、それともこの女が性悪なのか。
沸点の低い自分を宥めつつ、しかし眉に浮かぶ皺はとれなかった。
「否、けれど、今回そちらに向かったのは、確かにキラのこともあったんだ。」
突然の、クリニックの訪れに何用かと思えば、イザークの海外での研修の際に得た、共通の、しかも学生時代は結構仲の良い友人の話であった。
同じハイスクールの出身であり、また医学を志す人間として、ふたりは同じ一番が二番かと言われるほど入学が難関なユニバーサルに居た。
進んだ道は、ラクスは精神医療、イザークは内科医と、それこそは違ったけれど、腹の黒い人間同士、色々と情報交換をし、色々と連絡を取り合っている仲である。
クリニックに直接来て話す内容が、この国で超が付くほど有名な会社の社長の息子である、イザークとラクスの友人が、いつも親の言いなりになっていたというのに、突然親の会社を辞め、独り立ちした、という、言ってみれば瑣末もないような話であった。
とある友人、とはあるが、こちらも同じハイスクール、またユニバーサルでは工学部に所属し、主席で入学し主席卒業した、物凄い知能の持ち主である。
こんな、というのは当事者には失礼ではあるが、こういった話は別に電話でも良いはずだ。
寧ろ、イザークならば、時間の短縮とでも言うように、電話若しくはメールの1通で済ませているだろう。
それが、敢えて直接職場まで来て、というからには、友人の話はこちらにくるために託けで、他に何か用件あるだろう、と思っていたラクスである。
先のイザークの言葉を聞き出したラクスは、患者が絡む話のためにわざわざ帰り際に電話の約束を取り付けたのか、と少し落胆した。
「あなたも医者の端くれならば知っていらっしゃると思いますが、患者の個人情報を晒すことは出来ませんわ。何を今更どうしたんです?」
規則とルールには厳しいイザークがこういうことを言うのはおかしい、と思いつつも、やはり裏切られたような気持ちになる。
「いや、まあ、そういうことになるのかもしれないが、一応キラとは知り合いなんだ。あいつとは、ミドルスクールで同じだったからな。俺がユニバーサルに通っていた頃も、何度か連絡を取り合っていたんだ。」
「まあ、それでキラさまは、今日とても驚いていらっしゃったんですね。」
ラクスは頷いた。
ハイスクールから知り合ったラクスは、イザークのミドルスクール時代のことは全く知らない。
「研修から国内の病院に戻ってきて、まあ色々とカルテやらの整理をやらされていたんだが、キラのカルテがたまたま見つかってな。お前のところに紹介状を出した、とあったからそれも気になったんだが、他にもちょっとあってな。」
言葉を濁す彼の声は、あまり言い知らせとは思えない。
一体何が隠されているというのだろうか。
「キラには、精神的病気もあるそうだが、病気はそれだけではないようだ。」
「はっきり仰ってください。」
「目だ。」
「目?」
「キラの網膜の中心動脈に血栓がある。」
「……!?」



















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