あの空を見上げて。






「今日,職場でさ,告白されちゃったんだ」


さらっと言ってのけるキラに,アスランは持っていた箸を落としそうになる。
あわててそれをしっかり持ち直し,何気ない風を装い,アスランはキラに尋ねる。
久しぶりに会う時間を作れたのは夜から次の日の昼間。
どうせならと,キラが手料理をふるってくれたのだ。


「・・・・・・・・・・・・で?」
アスランは生唾を飲み込む。
「ん,もちろん断ったよ。今,スキな人がいるからって」
それを聞いて,アスランはあからさまに胸を撫で下ろした。
「どうしたの?アスラン。心配だった?」
尋ねられてどう答えるべきか瞬時て迷ったが,誤魔化すのは止める。
「キラがその人の方がいいって言ってしまえばそれまでだろ?俺だって神でもなんでもない。
ずっと一緒に居てもらえるかなんて思っていないよ」

言いながら,何だか絡まっていた糸が解けていくような気がする。
こんな,不安が気持ちを持っていたくない。
ずっとキラを振り向かせておくことのできる何かが欲しいが,そんなことを出来るはずもない。
だから。
自分は紙の上だけでも,ひとつの約束,が欲しかった。
違う。
約束なんかじゃない。

拘束だ。

「・・・ン。ねぇ,アスラン!」
「あぁ・・・・・・」
「どうしたの?ひとりでもんもんしてて」
「いや,何でもないんだ・・・・・・・ごめん」
「なら食べてよ?手,止まってる」
そうして,キラとアスランは再び食事を始めた。
少しの違和感を残して。




風呂をあがってすぐに,キラはアスランに呼ばれた。
「何?」
リビングではアスランが紙に水を滴らせながら,ソファに強張った面持ちで座っている。
キラの家に泊まっていくアスランは,今までに泊まったときに置いておいた自分のバスローブを身につけている。
布のはざまからのぞく,しっかりした体と,その輪郭を見て,アスランの表情と正反対な思いを持つ。

―――やっぱりアスランの体って綺麗に引き締まってる・・・・・・

そんなことを思いながら,アスランの横へと腰掛ける。
しかし,話があると言いながら,全くアスランは話そうとしない。
「キラ・・・・・・。」
「何?そうしたの?」
名を呼ぶだけで,アスランは何もしようとしない。
不安げで何かを求めるように彷徨う瞳をキラは向ける。
すると,アスランはキラのやわらかな体を腕で抱きこんだ。
きつくもなく。だけどすぐに離れてしまうようなものでもなく,よわいながらも何かを垣間見せる腕。
何が言いたいのか,大体のことは分かるが,あえて何も言わなかった。
いつまでそうしていたのか。

「キラ・・・・・・・・・・俺と結婚して・・・ください・・・・・・」
苦しげな声がキラの耳に伝う。
キラはアスランの背中に手を回した。
「エンゲージリングなんて用意していないし,キラの誕生日でも何でもな。
 だけど・・・・・・俺はキラと一緒に人生を歩みたい。
 その証・・・・・・・が,欲しい・・・・・・・・」
静かにゆるやかに話すアスランの言葉を聞いていたキラは口を開いた。
「生まれてくる,その,この世界の摂理では男の人の方が力・・・腕の力が女の人より強い。
 その代わり,生きていくうえで女の人たちは絶対に得ることの無い力の代わりに精神力がついていく。
 これは男の人が持っていない,女の人しか持っていない,女の人の武器だと思う。
 結婚して男の人と女の人が一緒に暮らすってことは,そのお互いが持っていた部分を支えあい,補っていくことだと思う・・・」
一度,ことばを区切り,アスランの胸元に頭を埋める。
しばらくそうしてから,キラはアスランのエメラルドにひかる,瞳を見つめた。
「僕がアスランの支えになってもいい?」
「キラじゃないとダメだ。キラがいい。ずっとキラだけでいい・・・・・・」
アスランはキラの体をきつくきつく抱きしめた。

薄々とアスランが,今回の話に踏ん切りがつけられていない雰囲気があるのをキラは気づいていた。
しかし,やっぱり自分から言い出すにはアスランにとってはよくないだろうと考えていたのだ。

「・・・・・・・・ありがとう・・・・・・」
キラはつぶやいた。

職場の人間の話をしたのも,わざと。
だが,キラ自身にも,自信があったわけではない。
自分だって,いつゴミ箱に捨てられるのか,分からない。
ずっと一緒にい過ぎて,飽きられていないだろうか,と。

安堵したために出てきた,キラの唇から出てきたやわらかなそれへと塞がれる。
部屋にはキスの合間の淫靡な音が響いていた。




「・・・・っく・・・・ひゃぁっ・・・・・・・・・」
「キラっ・・・・・」
「もっと強く・・・・・・・・アス・・・ラ・・・いっぱい・・・・・感じ,たい・・・・・・・」
「こう?」
「ン・・・・・・いいよぉ・・・・・・・スラ・・・・・・」
「・・・・・・愛してる,キラ」
「ぼく,も・・・・・・・ス・・・キ・・・」







気が済むまでむさぼりあった二人がし静かにベッドに横たわったのは,空が白ばみはじめた頃。

「・・・ねぇ,アスラン。見て」
キラが指差す方は,太陽がちょうど日の出を迎え,薄い闇と明るい城が綺麗なコントラスを描いている。
「綺麗だな」
「うん」
美しい。
そう,心の中では素直に感じられるのに,キラはどこか悲しくも感じてしまうのだ。
そんな心境に,涙が出てきてしまう。
出しちゃためだと思ったときには,すでに頬に涙が伝っていた。
その様子にアスランは気づいたのか,キラをやさしく抱きしめる。
しかし,キラの心の中の悲しい部分は消えず,ただ涙ばかりがあふれてくるのだ。

「キラ,ちゃんと用意するからマリッジリング,受け取ってくれる?」
急にたずねるアスランにキラは,まぶたの重そうな顔をあげた。
気を使ってくれるアスランに,キラは精一杯笑って見せた
「もらうに決まってるよ。アスランがくれるもの,ちゃんと大切にする・・・・でも・・・・」
少し,口にするのは憚られ,ことばは続かない。
その続きを促すように,アスランは言った。
「でも?」
「・・・・・・マリッジリングよりも先に・・・・・・・エンゲージリングが欲しい・・・・・」
「もちろん」
幸せそうに,笑うキラとアスラン。
ふたりで笑えば,悲しい気持ちも何とかなりそうな気がするとキラは思った。
「これからも,朝焼けを一緒に見ような」
「うん」





しかし。
ふたりが一緒に,朝焼けを見ることはそれから一度もなかった。

二週間後。
その出来事が,キラの心の中にサインを送っていたのかもしれない。








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