Better Helf 第10話*約束 ラクスが何か話しているのが聞こえた。 |
謝罪・・・・・・・が何とか,と言っていたような気がする。 ぼんやりと写る世界は現実なのか,はたまた夢なのか,全く分からない。 しかし,自分の視界に,目のつくところにシヴァが居ない辺り,これは現実なのだろう。 これが夢であれば,と強く願う。 現実へ戻ればシヴァが居ると,そう思える。 だが,そんなのは現実から目を反らしているだけだ。 夢ばかり求めていても何もならない。 ならば,現実を受け入れるしかないのだろうか。 ―――ママ シヴァの声がする。 にっこりと笑い,こちらに向かって走っている姿。 走ったら危ないよと声を掛けようとするのだけれど,シヴァには全く聞こえていないのだろうか。 走るスピードを変えない。 ―――何してるの,ママ? 近づいてきた自分の娘を力いっぱい抱きしめる。 これが,現実であれば。 これが,真実であれば。 そう思うと,枯れないと思っていた涙が再び溢れ出してくる。 シヴァ,シヴァ,シヴァと,この腕の中にある大切な子どもの感触を覚えていたくて,忘れたくなくて,必死に掻き抱く。 ―――泣いてるの? さっき呼びかけてくれた元気そうな声音と打って変わって苦しそうな声が,聞こえてきた。 ―――ママ,悲しいの? 言われて気付く,自分が涙していたことに。 ―――どうしたら,ママは笑ってくれる? 悲しそうに言う。 どうしたら・・・・・・? そんなの,シヴァが戻ってきてくれたら,だ。 そんなことを口にせずこころの中で思っていれば,シヴァがそっとキラの背中を抱きしめた。 ―――泣かないで・・・・・・ 暖かいシヴァの言葉に,キラは嗚咽をもらした。 いつも,そうだ。 自分が苦しいのをシヴァは気遣ってくれる。 お祭りに誘ってくれたのだって。 きっとキラを気遣ってのことだ。 そんなこと,言ってくれなかったら。 そんなに気遣ってくれなかったら。 シヴァは死ななかったのに。 しかし,そんなことは今さら,だ。 ―――ママが泣いたままだと,わたしも悲しいよ こうして,シヴァが抱きしめてくれているのも,もしかしたらシヴァが気遣ってくれているのだろうか? お祭りに誘ってくれたときのように。 ―――ママが悲しそうだと,わたしお空に行けない・・・・・・ママ,心配だよ ごめんね,という言葉も嗚咽へとかわる。 ―――ママ 呼びかけてくれる言葉に返事を返すことは出来ない。 それでも,唯一の,伝える手段がキラにはあった。 言葉がなくても,伝わらなくても。 シヴァに聞こえなくても。 ―――ママ 泣いていたらシヴァが幸せになれない。 今までずっと自分に気を遣ってくれていた。 今度は,シヴァが嬉しくなるとき。しあわせになるときだ。 自分の,こんなものでしあわせになってくれるかは分からないけれど。 それでも,自分に出来る精一杯のことを。 ―――ママ 甘いシヴァの言葉。 キラは涙を拭う。瞳に溜まっていた雫も一緒に拭って。 そして。 ―――ママ・・・・・っ・・・・・・・ キラは笑った。 これから頑張るよ,と。 もう悲しんだりしないから,と願いを込めて。 言葉に出来なくても,話しかけられなくても,ことばで伝えられなくても。 言葉以上に伝えることができる。 破顔。 ―――ママ…ママ・・・・・・・ シヴァがもう心配しなくてもいいように。 シヴァが心配しなくても大丈夫だと。 ―――ママはもうすぐたいせつなことと出会える 嬉しそうに話すシヴァの内容は全くキラには分からない。 たいせつなこと・・・・・・? ―――たいせつなことに出会えるよ,ママは・・・・・・そしたら・・・・・ 抱きしめたいたキラの腕を自ら解き,シヴァはキラの顔を名残惜しげに見つめた。 ―――きっと,もう一度会えるよ・・・・・・・ 会える?一体だれに・・・・・・・? しかし,そう聞き返したかったキラに時間は全く与えられなかった。 微笑んだままシヴァは光の粒へと変わり・・・・ 瞬きながら,美しい空へと・・・・・・・・ ふっと目が覚めると,部屋に日中の太陽が注がれていた。 はっきりとした、記憶。 はっと想い目に手をやると,涙の跡がある。 ―――シヴァと話した・・・・・・? 信じられない。 夢だったんだろうか? それとも,現実だったのだろうか? それでも。 確かに約束したのだ。 シヴァと笑顔で。 だから。 「ラクス,どこ?」 この家に居るはずであるラクスをキラはいくつもの部屋の扉を開けて確かめる。 リビングを開けると,ラクスが居た。 「ラクス,謝罪とか・・・・・・・・・」 「キラっ・・・・・・!!!」 急に抱きしめられた。 「もう・・・大丈夫なのですか?」 尋ねられた言葉に,キラは笑って答えた。 「大丈夫。約束したから」 |
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