Better Helf 第12話*再び。 心臓が早鐘のように打っている。 |
「キラさま,そんなに緊張なさらないでください」 緊張しない方が無理と言いたいが,キラの緊張ぶりは見ている方が可哀想になるほどだった。 ミリィも痛ましげな表情で見守っている。 「今日いらっしゃる会社の社長は,私のいとこなのですし・・・・・・お話の時には私たちもついていますから」 励ましてくれるラクスに,キラは儚げに彼女を見た。 暫く,たわいのない会話をラクスとミリィと,何も話さないキラが時間を過ごしていると,ベルがなった。 「先に客室に入ってもらっておきますので,その後呼びに来ますわ」 ピンクの髪を振りまいて,ラクスはキラの居る部屋を後にした。 いらしてくださいと言われ,キラは重たげに腰を上げる。 頭が痛い。 それでも,逃げたくはなかった。 どれだけ行きたくなくとも。 ちゃんと約束したのだから。 また,シヴァが心配してしまう。泣いてしまう。 もう,泣かせたくはなかった。もうずっと笑っていてほしい。 部屋の扉をラクスが開けてくれた。 小声でありがとうというと,そこには不安そうな顔があった。 大丈夫という表情をすると,幾分やわらいだ顔つきになりはしたが,やはりラクスも心配してくれているらしい。 キラはゆっくりとした歩みで座布団の上に座った。 どうしても顔が下を向いてしまい,相手の顔を直視することが出来ない。 秘書の方と社長がいると言っていたはずだ。 二人の視線が自分に向かっているのが,俯いていても分かる。 何か声を掛けなければと思うのだが,キラの口から出たのは,僅かばかりの呟き程度でしかなかった。 「・・・・・・・・・っ・・・・・・・・・」 五人いても,まったく窮屈間を感じる部屋ではないはずであるし,部屋の大きさ的にも程よいはずなのだが,空気が重くて重くて仕方がない。 ラクスとミリィはきっと息を呑んで,行く先を見守っているはずだ。 それから,ここには居ない,空にいるシヴァも。 みんな,助けてくれている。勇気を分け与えてくれている。 頑張らなくては。 キラは膝の上でつくった握りこぶしを手が白くなるまで強く力を込める。 どれだけの時間が経ったのだろうか。 置物の時計がこちこちと鳴る以外の音は何も聞こえない。 いい加減に何か話さなくては,相手の顔を見なければと思ったその時。 相手側から声が掛かった。 「今回は本当に申し訳ありませんでした」 言われた声に聞き覚えがあり過ぎて。 ―――もしかして・・・・・・ もしかしなくても,分かっていたが思わず確かめずにはいられなくて。 初めて顔を上げたキラが見た社長とは,シヴァの父親だった。 「・・・・・・アス,ラ・・・・・・・・・・」 しっかりと眼球が写すのは,紛れも無い,間違えることはない,アスランで。 分かれた時よりも,頬の肉が取れ,精悍な顔つきになっている。 彫りの深い顔立ちに,すっと伸びた鼻。 美しく輝くエメラルドの瞳。 きっと美しい顔をしているのだろうが,今はその顔は歪められている。 知らない間に,彼は益々自分の手の届かないところにいっているのだろうか・・・。 あまりにも信じられない光景に,キラは信じられないと瞳を剥くばかりだった。 一体どのような会話をしたのか覚えていない。 金額的な話など,ラクスが殆ど対応してくれていたはずである。 そして,アスランとその秘書が帰るとき,アスランはメールアドレスと携帯電話の連絡先を書いた紙をこっそりと渡してきた。 連絡をくれ,と言葉を残して。 「あの社長はキラの一体なんなのかしらね」 傍で見ていたミリィがラクスに尋ねる。 「きっと・・・・・・何かあった相手でしょう? 事故のことが理由とは思えないような動揺ぶりでしたし」 考え込んで言うラクスに,ミリィは頭を捻った。 何かあっただろうか・・・・・・? 頭の中の記憶を掘り出そうとするミリィに思いかかる節が見つかった。 「なんらかの形で子どものことと関係があると思う」 もう少し思い出してから,ミリィは話す。 「家を出て行ったり,っていうこともあったから・・・たとえば父親・・・・・・とか・・・・・・・」 たとえばと言われ,ラクスはひっかかる所を見つけた。 「シヴァはキラと違って,聡い子でしたから・・・・・・・例えばではなくそれは事実かもしれませんわ」 電話をしても留守電になっていたから,留守録に声を入れた。 「キラです・・・・・・・・・この電話番号にまた掛けて下さい・・・・・・・」 アスランの望むように電話なんてしなくてもよかったはずだ。 あんなに手酷いことされたのだから。 それでも。 自分の中には,まだ何かが残っているような気がして。 そしてアスランにも何かきっと話したいことがあるはずだ,と思うから。 電話を切ったキラは,その日の精神的疲労に疲れきってしまい,そのまま意識を手放してしまった。 |
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