Better Helf


第14話*分かちあうとき







「キラが出て行く五年前まで,まともに会話なんてしたことなかったけど,ずっと大切だったんだ」
話すアスランの瞳は,しっかりとキラを捕らえる。
それに対して,キラはまともにアスランと顔を合わせる事もできていない。
「大切にしたかったんだけどさ・・・・・・スキンのことでキラに凄く嫌な思いをさせたと思う・・・・・・ごめん」
後悔しているような口ぶり。
「本当に大切だったんだ,綺麗で美人で。ずっと自分の腕の中で大切にしたかった。もっと可愛がって,色々キラと話したかった。」
言う言葉に,キラは思う。
やはり,シヴァを父親に会わせてやればよかった。
直接,とはいわなくても,どこかの影から見ることはできただろう。
こんなことを思っていたアスランになら,子どもを孕ました時も出て行くという方法を取らずに,彼に話せばよかったのではないだろうか。
「でも,思っていることと,俺の行動は全く違っていたから。出て行かれても仕方がないと思ったよ。
 連絡も取りたくても,あんなことがあった後なんて,やっぱりどうしても出来なかった。
 まさか,こんなことで会うとは思いもしなかった・・・・・・。キラは・・・・・・・・・」
言いたい言葉は,口から流れてくることはなく。
伝えることが出来なかった。
「ヒトを失う苦しみアスランは知ってる?
 涙しか出てこない日をアスランは知ってる?
 深く刺さった刃を抜くことできない苦しい日々をアスランは想像できる?
 大切な子どもを失った悲しみをアスランは想像することができる?」
一息に言ってから,もう一度口を開けた。
「こんなこと,アスランに言うなんて,反則だと思うよ。ただ子会社が起こした事故なんだからアスランには直接関係ないってことも,分かっているよ。
 けど・・・・・けど・・・・・・・」
泣かないでいよう,と思ったのに。思いとは裏腹に唯々溢れてくる。
「こんな会いかたって・・・・・・・・」
彼を追い詰めたいわけでもなく,今再び謝罪の言葉をもらいたいわけでもない。
それでも,言わずにはいれなかった。
泣きながら冷静になっていく頭が,こんなことを言うべきではなかったと緩やかに告げている。
色々な思いが自分自身の中で行き交い,ぶつかり合っている。
「分かるよ」
そっと言ったアスランの言葉に,キラは顔を上げた。
「へ?」
「分かるよ,人を失う苦しみ。」
悲しそうに言うアスランに,キラは分からないとでも言うように瞳で尋ねる。
「俺だって分かるよ,人を失う気持ち。キラに会いたくても会いたくても会えないこと。
 キラみたいに,もうずっと会うことの出来ない気持ち,とはいかなくても,会いたくても会えないっていう気持ちはそれい似ていると思う・・・・・・」
静かに告げられる言葉が,キラは自分のこころの中に入るのを少し感じた。
「ずっと会いたかった・・・・・・・・・・」
言われて咄嗟にキラの口から出てきた。
「シヴァを君に会わせればよかった・・・そんなに君に想ってもらっていたんだったら・・・・・・・」
それを聞き逃さなかったアスランはどういうことだ?と尋ねた。
「子どもだって,親の顔が見たいとおもうでしょ?だから,アスランに,こっそりとでも会わせればよかったな,って・・・・・・」
言われた言葉にアスランの顔は大きく歪む。
「親・・・・・・・?」
「うん。お父さんに」
キラの言わんとしていることが,アスランには分からなかった。
しかし,キラの言った言葉を反芻している内に,意味が繋がり。
「もしかして・・・・・俺とキラの・・・・・・・・」
「もしかしなくても,だよ」
儚げに言うキラが,アスランにはとても愛しくて,抱きしめたく感じられる。
言いようの無い気持ちがアスランの胸の中に広がった。
「・・・・・・・・・・あのゴムを付けてくれなかった時にできちゃったんだと思う」
ぽつりとキラは言葉を零した。
「できたって分かったとき,アスランに知らせるべきかどうか凄く迷ったよ。
 けど,ゴムの時でもあんなに怒ってたでしょ? 無理だと思ってね。
 でも,子どもは生まないと可哀想だと思ったし・・・・・・・何より大切なひととの間に出来た子どもだったから・・・・・・・」
言われて初めて知らされる事実。
それは,アスランには全く想像できることではなかった。
自分との間に出来たこども。
自分を大切だといってくれているキラ。
それは,アスランにとって信じがたいことでもあって。
思いもしなかったことに,アスランは声を震わせた。
「ごめん,ごめん・・・・・・本当にごめん・・・・・・・・・」
自分の責任で。
キラは家を出て行き,子どもを生む決心を心細かっただろうに自分でし,大変な中,母親ひとりで子どもも育てた。
そして,自分の責任とは言わないが,子会社が事故を起こし,その子どもを殺してしまった。
自分の責任で。
もっと自分がキラを大切にしていたら。もっと自分がキラを大事に大事に胸の中で抱きしめていたら。
キラは家を出て行くこともなく,子どもを生む決心を心細い中ですることなく,子育てもひとりで苦しむこともなかった。
そして,子どもを死なせることはなかったはずだ。自分が,もしいれば。
自分の責任で。
後悔の波がアスランの中を押し寄せる。
しかし,今思うのは全て結果論にしか過ぎない。
過去を振り返り,それを反省する材料に出来ても,そこから前に進むことは出来ない。
今,自分がすべきことは。今自分がしなくてはならないことは。
アスランは席を立ち,キラの方へと向かう。
そして,小さな体を精一杯抱きしめた。
「本当にごめん・・・・・一杯苦しい思いを一人でさせて・・・・・・・・・」
言葉は少ない。
しかし,そこには口にすることのできない想いが沢山詰まっていた。
それが,涙となって現れる。
アスランは,行く筋もの涙を頬に落とした。
「ごめん,ごめん・・・・・・・・キラのことをもっと大切にすればよかった・・・・・・」
抱きしめられ,告げられて。
そしてまたキラも,涙した。
美しい,宝石のような永遠の輝きを放つような涙が,ふたりの頬を伝っていた。





















薄荷キャンディの全ての無断転載を固く禁じます。
All text on this web stie are copyright(C)2007- Peparmintcandy yurikaoru