Better Helf


第5話*well being

元気ー?
ミリィの声が聞こえてきた。





子どもを起こさないように,静かに扉を閉めると,キラは声をする方へと向かう。
その声の主の隣には,ラクスがいた。
「お邪魔します,キラ」


リビングに二人を通してから,キラはコーヒーを煎れた。
「退院時にはキラのお手伝いに行きたかったのですが,仕事がたてこんでいたために・・・・・・本当にすみません。
 本当に,元気そうでなによりですわ」
「私も。どうしても,抜けることが出来なかったのよ。おじいさまの法事で。ごめんね,キラ」
ラクスとミリィが謝るのを,キラは「そんなこと・・・・・・!」と言った。
「二人とも,迷惑かけて,本当にごめん」
二人には,言葉にもならない位お世話になっているのだ。
今日だってわざわざ家に来てくれている。
キラの方こそ,ふたりにきちんとお礼をせねばと思う。
「聞いてくださいな,キラはね・・・・・・」
突然,ミリアリアに向かって話し出すラクスに,キラは一気にその白い肌を耳まで真っ赤にした。
その話はもう一生聞きたくないと思うが,そんなことを面と向かって言えるようなキラではなく。
とたんに,花が水分不足で萎んだようになるキラを横目に,ラクスは話し始めた。
「痛いってはじめの方は唸ってられて,それおから涙まで流されるのですよ。
 あまりなお姿だったので,私がキラの手を握りましたらこうなってしまいましたの・・・・・・」
笑いながら話すラクスの顔には,いたずらっ子のような可愛らしい笑顔が浮かんでいる。
そんな彼女をみたキラはますます小さくなった。
「あらぁ・・・・・・・・・」
一方,ラクスのその手のひらを見たミリィは抜けたような声をあげる。
キラは,もう穴があったら一生そこに入っていたいような面持ちとなった。
ラクスの手のひらがどうなっているのかというと,常に普段から手入れをされているであろう身体の一部のそれには,
未だに赤い,誰かが握った後が,くっきりと残っているのだ。
「何日経っているの・・・・・・?」
「・・・・・・・・そうですわねぇ,そろそろ二週間を超えますわ」
出産してから十四日以上経っているにもかかわらず,この有様。
それについては,キラには謝るしか手段は残されていなかった。
「本当にごめん,ラクス!手に傷つけてても,何も言われてない?」
ラクスが職とするタレント業はからだ全てが売り物となる。
たったひとつの傷さえ許されないはずだ。
「本当にごめん!!」
「いいえ,あやまらないでください。しばらく仕事は休みを貰っていますから」
笑って言うラクスの隣ではミリィはいいなぁと呟く。
「私も立ち寄りたかった・・・・・・」
「体調があまりよくないので,一年か二年ほどお休みを頂いたんです。
 それより,キラ。名前は決まりましたの?」
これ以上,この手のネタはいくなんでも可哀想にになり,違う話をラクスは切り出した。
「あれ,まだ言ってなかったっけ。名前はね女の子だし,シヴァにしたんだ」
さっきの赤い顔を引きずりながらも笑うキラは,ふたりの目にはとても幸せそうにうつる。
と,そこにわずかばかり声の泣き声が聞こえてきた。
「ごめん,見に行ってくる!」
「キラ,見に行ってもいい?」
ミリィに続いてラクスも尋ねるのを,キラはういいよと答える。

そうして,リビングには誰もいなくなった。
しあわせのにおいを残して。




well being―――幸福  









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