Better Helf


第6話*再開

何て言ってくれるだろう・・・・・・?





見慣れたカフェ店に足を踏み入れる。
とたんに,深いコーヒーの匂いがキラの鼻腔を擽った。
今まで,買い物のために使っていた道にあるこの店をキラはいつも眺めていた。
落ち着いたシックな色と,オープンカフェで和やかに話しているひとたち。
いつか入ってみたいなと思っていたが,入ったのは結局半年も経った今日になってしまった。
楽しみであるはずなのに,何となく緊張もしてしまう。
―――何て言うだろ・・・・・?
抱きかかえている子ども――シヴァ――の背中をぽんぽんとたたきながら,キラはキャラメルマキアートを注文した。


腕時計に目をやると,予定の時刻よりも二十分も余裕がある。
早く来すぎてしまったかなとそんなことを考えながら,キラはカフェ店の雰囲気を味わった。
流れてくる,ゆるやかなジャズは心地よい響きをキラにもたらす。
なんとか,この雰囲気のように話が進むといいなぁと思うが,相手が自分を見てなんと言うかは,会ってからしか分からないものかもしれない。
マイナス思考にならないように,キラは静かに目を閉じ,相手方が来るのを待った。


ふっと目が覚めると,目の前には約束していた人物が何とも言えない顔で座っていた。
「えっと・・・・・・ごめんなさい・・・・」
とりあえず謝るべきかなと思い,言葉にするが相手はどんな反応も見せない。
「え・・・と,あの・・・・・・あの時は置手紙だけで家を離れてごめんなさい」
何をどう話したらいいのか,やはり緊張のようなものがキラの中に生まれてしまい。
長年,自分の世話をしてきてくれて,しかし突然家を出てきたから多大な心配をかけているはずで。
相手――ミハウ,にキラは謝った。
これ以上,キラから何か話しかけるのは心苦しくて上目勝ちにミハウを見つめていると,十分な沈黙の末,諦めたようにミハウは口を開いた。
「本当です,キラさん。どれだけ心配したことか・・・・・・あの連絡をくださった日は本当にびっくりしましたよ」
シヴァが生まれて,少し落ち着いてからモバイルのファイルを整理しているところ,たまたまミハウのアドレスが出てきたのだ。
いつか連絡を取りたいと思っていたから,キラにとっては願ったり叶ったりだったのだ。
「お元気そうで何よりですし・・・・・・お子さんもいらっしゃりますし・・・・・・・・・。
 いつの間にか,女性になられていたんですね」
しみじみと言われると,何だか実の母親のように感じる。
確かに,幼いときにキラはミハウと出会い,面倒を見てもらっていたから,彼女にとっては手の付かない子どもがいつのまにか手の届かないところへ行ってしまって物悲しくなっているのだろう。
そして,キラにとっても第二の母,また育て親のようにも感じられる。
「うん・・・迷惑とか沢山かけて・・・・ちゃんと恩返しも出来てないうちに家を出てしまって本当にごめんなさい・・・」
「まぁ,出て行ってから一週間くらいは,キラさんが家に帰られた暁には盛大に叱らせていただきましょうと思っていましたが,
 一ヶ月も帰ってこられないと,なんとなくもうこころの中では感づいていましたよ。きっとキラさんは帰ってこられないんだな,とね」
目を覚ましたらしいシヴァが何か手探りで探しているような様子をミハウは見て,優しく笑った。
「家の中にぽっかりと穴が開いたような感じになりましたね。 キラさんが居られないだけで家の中は本当に寂しいものです」
悲しそうに笑うミハウは,家に帰ってきて欲しいと遠まわしに言ったがキラはやんわりと顔を横にふった。
「父さんと母さんと一緒に住んでいた家に今は住んでるんだ。 はじめは料理とか全く出来なかったけど,今は本を見ながらなんとか出来るようになってる」
これからシヴァにも食べさせていかないといけないと思うと,やはりしっかりがんばらねばと思う。
「そうですか・・・・・ですが今日は本当に安心しました」
安心したし・・・・それからやはり驚きもある。
まさか子どもがあいるとは思いもしなかった。
出て行く理由がで見当たらないと思っていたが,どうやら子どもが関係しているらしい。
それは,今日突付かなくても,また後日に話せばいいだろう。
そう,ミハウは思った。
どうなっているのかと,一時は本当に心配したが,これだけしっかりと話してくれているのだから,大丈夫なのだろう。
「女の子ですよね?」
着ている服からして,なんとなく女の子のような気がするのだが,それが本当に性別を表すものにはなり兼ねない。
一応尋ねると,思ったとおりの答えが返ってきた。
「あまり泣かないんですね。 普通は慣れない空気の中にいると泣き出してしまうことがあるんですが」
尋ねてみると,キラは驚いたように目を剥いた。
「え?そうなの?家でもあまり泣かないんだけど・・・。お腹減ったときとか,オムツの時は大声で泣いてくれるけど・・・・・・」
「きっと聡い子なんですね。 あまり手が掛からずに育っていくんじゃないんですか?」
口から笑みを零しながら言うと,キラははははと笑った。
「僕の賢い血を受け継いでいるから」




再びミハウと会う約束を交わしてから,キラはカフェ店を後にした。
―――父親のこと,何も聞かなかったな・・・・・・・
ミハウが気づいていないとは思いがたいけれど。
彼女なりに気を遣ってくれているのだろうか。
そして彼女は,今日のことをアスランやその他に人間にも何も言わないだろう。
ミハウと話していたときに,一度目を覚ましたはずなのだが,また眠っているらしい。
穏やかな顔で眠るシヴァをキラは見つめた。
―――父親に君のことを知らせられなくてごめんね・・・・・・
キラには,アスランと会うつもりも全くないし,子どものことを知らせるつもりも全く無い。
しかし,やはりわが子には可哀想だと思えてくるのだ。
溢れそうになる涙を見せないように,キラは人ごみの中に埋もれた。









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