Better Helf


第9話*とき

「シヴァ―――っ!」





叫んだ時には,大型トラックに小さな体が挟まれていた。

連れて行かれた病院で,小さな亡骸があった。

肺に肋骨が刺さり,運ばれたときにはもう命が危なかった。
緊急手術が行われたが,それも束の間,小さな命はそれに耐えることが出来なかったのだ。







小さな女の子を殺したということで,運転手は書類送検となった。

広い家に静かに電話を知らせる音がなる。
それに全く目を向けないキラに変わって,ラクスが電話に出た。
「はい?どちら様でしょう?」
尋ねると,今回の事故の原因となった運転手の会社からだった。
――キラ・ヤマト様でしょうか?
「いいえ。只今不在なので伝言ならこちらで伺いますが・・・・・・」
――あの,今回の事件について,会社の方から謝罪をしたいと思いますので,都合のよい時間を聞かせて頂こうと思っているのですが・・・
「分かりました。伝えておきますが,返事がいつになるかは分かりません。」
――あの・・・・?どういうことでしょう?
「事故のことで精神的に不安定になっているので・・・・・」
――・・・・・・分かりました。本当にすみませんでした。

切れた電話をラクスは見つめた。

ツーツーと機械音しか聞こえてこないのに,そこには何か,悲しさを感じさせる。
ぼんやりとしていたが,しばらくして我に返り,ラクスはキラの傍へと向かった。

「キラ・・・・・・」
一応呼びかけはするが,全く反応はない。
こじんまりとした葬儀を終わらせて,遺骨を埋めたときから,キラの瞳はどこを見つめているのかさっぱりと分からなくなった。
危ないなと,キラにつきっきりでいると,さらに現実味が増してきた。
ほっておけば,何も食べない。寝ない。
何もしない。
死んだような瞳で,生きているのか死んでいるのかも分からない。
それは,まるで植物人間のようだった。
美しく,子どもを生んだ後だといえど綺麗で艶のあった肌は,精神的な作用に無茶苦茶な生活のために,落ち窪んでいる。
静かに流れている雫だけが,永遠に輝き続ける宝石のようだ。
「今日,会社の方からお電話がありました」
「・・・・・・・・・・・」
案の定,キラからの返答はない。
「謝罪しにキラの家に来たいので,空いている日を教えてくれとのことでした」
「・・・・・・・・・・・」
「また落ち着いたら,電話をしましょうね」
「・・・・・・・・・・・」
全く,ラクスの言葉に返事を返さない。
ごく稀に漏らす,小さな言葉は,亡くした幼い子どもの名前ばかり。
「さぁ,キラ。お茶にしましょう」
電話が掛かってくる前に,事前に用意しておいたお盆を手に,ラクスはソファへとキラと向かった。


このままでは,キラが本当に植物人間になってしまうことくらい,ラクスにだって容易く想像することができた。
しかし,今ここで無理やりなにかをしても,きっとキラは堅く拒否するだろう。
なら,自然に。ときの流れで。
笑顔が戻るように。
あのおしゃべりがもどるように。
キラがキラに戻れるように。
ただ,ラクスはキラのサポートをすることしか出来なかった。















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