愛しさの対象、それは俺の彼女。

4章 芳しい香りを放つ華  中編





「じゃあ、今から買いにいく?」
「へ?だって、もうクリスマスは終わったんだよ?」
季節は常に移り変わっていく。
あんなにも美しかった、街中に飾られたツリーの数も減り、今では正月へ真っ盛りである。
そんなときにプレゼントなんて、時期はずれもいいところではないだろうか。
そう思って言ったキラであったけれど。
「別にクリスマスじゃなくてもいいじゃない。恋人同士なら、いろんなことに託けちゃえばいいのよ。」
そういって、フレイはフォークを指先で遊んだ。
「付き合ってから一ヶ月とか、初キス記念とか、そんなの挙げだしたらきりがないわよ。」
「ふーん……。」
「でも、今のあんたにはそういうことを考えるのは無理そうだし……ああ、いいのがあるわ。泊まらせてもらってるお礼なんかどう?」
「あ、それいいね。」
「じゃあ、これで決定ね。」

思い立ったが吉日とでも言うように、ふたりはカフェを後にする。
自分が指輪をもらったときの、あの嬉しかった気持ちは、未だキラの胸のでゆらりゆらりと揺れている。
アスランにも、貰って嬉しいものを受け取ってもらえるように、そんな想いを抱えてデパートに、ふたりは向かった。



デパートの中を何度も同じフロアを歩き回り、その後選び抜いたものをラッピングしてもらった後に、本来の目的でもあった、宿題とされているテキストのコピーを済ませる。
それからフレイの勧めで、別の店に入り、その後駅まで一緒に歩いたあと、アスランの家に向かう頃には、もう陽もすっかり沈んでいた。

「ただいま帰りました。」
コピーをするという名目で家を出たのだが、外出していた時間は非常に長く、それは明らかに道草を食べていたと言わんばかりのものである。
しかも連絡もしていなかったのだから、咎めを受けるかもしれない。
そう思いリビングへと足を伸ばすが、そこには「おかえり」というアスランの柔らかい声が響くだけで、特に何かを言われるような雰囲気ではなかった。
「アルスター君とお茶でもしていた?」
炒め物でもしているのか、キッチンに立ち、フライパンを片手に持っている。
「あ、うん。遅くなってごめんなさい。」
何だ、彼にはお見通しだったのか、とコートを脱ぎながら思う。
買ったプレゼントはご飯の後にでも、サプライズよというフレイの言葉を思い出し、鞄の中にひっそりと隠す。
しかし、中身は酷く恥ずかしいもので、包装の上から持っているだけでも、何だか悪いものを持っているような気がする。
心臓がばくばく鳴るのを抑えつつ、アスランの元へとやって行った。

アスランの手によって作られた、豆板醤が効いたマーボー茄子に、中華スープ、もち米で作られた中華おこわと、中華尽くしのご飯が、テーブルに並ぶ。
それをおいしく頂いた後、キラは食器洗いを申し出た。
それと同時にお風呂にお湯を落とし、頃合を見計らって、アスランに先にお風呂を勧める。
食器洗いを終え、アスランが風呂から上がってから、キラも一日の疲れを汚すべく、浴室へと向かった。



―――……。
フレイの勧めで買わされた、その白い布を目の前にぐいっと広げる。
やはり、それは酷く気恥ずかしい。
ブルミエ刺繍の入った胸元は、裏に薄い生地が入ってるために、直接胸は見えないように、施されている。
切り替えには、細いリボンが蝶々結びされており、それからスリーフリルが入っている、透けた生地。
キラの肌が白いことをよく知っているフレイは、きっと一番に白が似合うのだと宣言し、ホワイトタイプを勧めた。
そして、セットとしてついているショーツはこれまたティーパックとなっている。
ちゃんとデパートで、プレゼントと称する、ラッピングされたものを用意したのだが、雰囲気も大切なのよと言うフレイに無理やり連れて行かれたのが、きっと女の子しか入れないような、そういった店だった。
そこは、今までキラがお目にかかったことのないようなものばかりが陳列されていたのだが、フレイは臆せず店に入り、ああでもない、こうでもないと云々唸っていた。
まさか、自分のものを選ばれているとは知らなかったキラは、フレイの「これがいいわ!」という決意の言葉に、驚きを隠せなかった。
(普段の格好も十分可愛いと思うけど、たまにはあんたもサービスが必要よ!)
そういって差し出されたのが、ベビードールだった。
(……や、やだよ。絶対こんなの、着たって変だってば。)
断固拒否していたが、いつまでも男を引き寄せ続けるには、たまには色っぽさも必要よ!、と言われれば、その拒否の言葉も段々薄れていく。
やはり、アスランと一緒に居たいし、ずっとすきで居て欲しい。
その努力は必要だというフレイに、キラの頑固さも崩れてしまい、結局今日プレゼントを渡すときにも、着てみなさい、という言葉が下ったのである。
空調の効いた部屋であるから、きっと、寒いなどということはないだろうけれど、細い肩紐だけで吊るされる、丈が腰よりも上の、このベビードールは、とても心もとないように見える。
―――変じゃ、ないかな……。
もう一度目の前に、吊るしてみるが、何度見ても、それは酷く恥ずかしい代物だ。
けれども、こういった色気がなければ、男を惹き続けるのは難しいのよ、というフレイの言葉が、キラの脳を過ぎる。
誰も、見て欲しくない。他の女のひとを、見て欲しくない。
自分だけ、ずっと見続けていて欲しい。
そのために必要なことだと思えば、これを着ることは、それほど難しいことではないのかもしれない。
息をひとつ飲み込み、キラは身体に巻きつけていたバスタオルをそのままに、まずショーツに足を通す。
そして、もう一度唾をごくりと飲み込んで、目の前の敵を睨んだ。



ノック音が聞こえて、アスランは「どうぞ。」と応えた。
アスランの家の書斎は、一声掛けてから入るように言っているが、寝室に関しては特に何を設けているわけでもない。
しかし、普段から、どの部屋に入るときでも声を掛けることを忘れないキラに、やはりきちんと教育された子なのだと、関心する。
このときも、ベッドにヘッドに背中を預けて、くつろいでいたアスランは、最近発表された学会の資料に目を通していると、いつものようにノック音と、入ってもいいですか、と言う言葉が聞こえたから、応答したのだ。
だが。
いつもなら、応答後に、静かに扉を開けて入ってくるのに、今日に限って、いつまで経っても、扉が開く気配がない。
もしかして、自分が応答したつもりなのかもしれないと思い、再度「入っておいで。」と声を掛ける。
それから、いつもにも増してゆっくりと扉が開かれる。
一体何事かと思い、そちらを見るが、当の本人は一向に姿を現さない。
おかしく思い、ベッドヘッドから背中を離し、扉の方へと、床に足を下ろした。
「キラ、どうかした……っ!」
どうかしたのか、と尋ねようとしたのだが、その言葉は最後まで発することは出来なかった。
「き、ラ……。」
どうしたんだ、という言葉が出てこない。
全て喉に引っ掛かり、彼女の名前さえ、きちんと言うことが出来ないくらだった。
それくらいに、キラの格好はひどく驚かされて。
「……やっぱり、へん、かな……?」
アスランの酷い驚き様に、キラは居たたまれないような表情をして、下を向いている。
「まさか!変じゃないさ!ただ、……。」
「……ただ……?やめた方が、いいかな?」
否定的なキラの発言に、ようやく気づいたアスランは、自分の思うことを言葉にする。
下を向いた彼女の顔をしっかりと確認することは適わなかったが、耳まで赤く、その身体は小さく震えている。
「まさか、こんな格好をしてくるとは思ってなかったよ。……色っぽくて、ひどくすてきだ。」
男の性欲をそそるよ、と耳元で囁けば、うん、という言葉が小さく返された。
「やっぱり、キラの肌には白が似合うんだね。けど、突然どうしたのさ、こんな格好をして。」
特に今日が何の日かも思い当たらないアスランには、そのキラの行動が謎である。
何もなしに、こんなサービスなどきっと出来ないような彼女であるから、理由がきっとあるのだろうけれど。
「あ…あの、クリス、マスに……貰った指輪、……凄く高いって、フレイが言ってて……。」
「うん、それで……?」
「ちょっとくらい、お返し、しないと駄目だと、思って……。」
「それで、そのお返しにこの服を選んだの?」
それは、ひどく的を得たお返しだろう。
これを見ることが出来たのならば、あんな指輪なんぞ安いものだと、やはりそれなりの性欲を持っているアスランにとって、ひどく満足のいくものである。
しかし、こんな案をキラが考え付いたとは、到底考えられない。
少し考えてから、思いついた人物に、心のなかで息を吐く。
いらぬお世話もする彼女であるが、いいところもあるじゃないかと見直した気持ちになるが、これではまるで、彼女に自分が踊らされているようで、少し納得がいかない。
「ち、違うよ。……本当は、こっちなの。」
慌てて否定してから、後ろ手にして持っていた、包装されたものをアスランの前に差し出す。
「指輪、ありがとう。」
そういって差し出された彼女の細い指には、贈ったあの指輪が光っている。
指輪が光っているキラの手は、身体は、そして彼女のこころも、自分のものだ。
きっと離さないと自分のこころに誓って渡した、それは、きっと彼女と共に生きたいと願ったあのクリスマスの日をきっと忘れさせはしないだろう。
その手から差し出されたものを受け取り、開けてもいい、と訪ねる。
うん、という言葉を確かに聞いてから、その包装をゆっくりと解いた。




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