4章 芳しい香りを放つ華 後編
丁寧に包装紙を剥がし、そこから生まれたのは、ガラスで出来たフォトフレームだった。
婉曲をゆるやかに描いたその左側にフレーム、右側には段彫りされエッヂングが施された美しい薔薇が横たわっている。
手の指先で触れてみると、一枚一枚の花びらに厚みがあり、遠くから目を離して見ると、まるでそのバラが生きたもののように見える。
「……品のいい、ものは、アスランは殆ど持っているから……。」
何を選ぶのか、きっと時間が掛かったのだろう。
家を出て帰ってくるのに、非常に長い時間を要したのは、きっとおしゃべりに華が咲いていただけではないはずだ。
相手がそれほど悩んで買ってくれたもの、しかも自分のために、と思うと、とても嬉しい。
「ありがとう。大事にするいつか、これに入れられる写真をとらないとな。」
抱きしめようとして、しかし、彼女の赤い顔を見て、その表情はひどく可愛かったけれど、しかしあまりにも居たたまれないような表情であった。
「着替えておいで。」
思わず、そう言わずにはおれなかった。
透けたその素材から見える肢体はひどく美しく、小さな身体を抱きしめたいと思ったけれど。
いつか、またこういう機会もあるだろうと、足早に去る彼女の姿を見送った。
程なくして、戻ってきた彼女はいつもと同じ、寝巻きを身にまとっていた。
待っている間に、貰ったフォトフレームは、ベッドサイドに静かに置いた。
光を受けて、ガラスが綺麗に反射している。
おいで、と呼びかけ、キラを自分の隣に座らせる。
直接的に、細い身体のラインは見えなくなったが、その触れた指先から、やはり彼女の、まるで強く抱きしめてしまったら壊れてしまうような、そんな感じは伝わってくる。
その腰に、アスランはやさしく手を添えた。
「でも……まさかのプレゼントだったな。」
「そ、そうかな……やっぱり、似合ってなかった、かな?」
「まさか!とっても可愛かった。」
あのままの姿で居たならば、きっとベッドの波に流されていただろう。
しかし、それはキラの親友の手に踊らされているような感があり、それだけは避けたかった。
でも、やはり何もしないというのは、ひどく勿体無いような気がして、アスランはキラの唇を自分のもので塞ぐ。
触れるだけの、やさしいキス。
それでも、何度も触れ合わせ、甘いそれを味わう。
「本当は、こうしたかった。」
そういって、キラから顔を離すと、案の定顔は赤い。
「けど、キラの身体に負担は掛けたくない。」
はじめてだった、あのクリスマスの次の日のキラは、やはり身体が辛そうだった。
それをさまざまと思い知らされたアスランは、愛情を確かめ合い、深める行為であると分かっていても、やはりそれにつきまとうリスクに目を瞑るわけにはいかなった。
だから、自分の身体中にあった理性を総動員させて、今日もキラを解放したと思ったのだけれど。
「ぼく……しても、いいよ。」
そう言って、赤い顔のまま、自分の背中に手を回してくるから、結局アスランは自分の我欲を止めることが出来なかった。
結局、アスランは自分の情動を止めることが出来なかった。
腕の中で眠るキラの表情が、まるで、アスランの激しさを物語っているようでもあった。
情事の片付けはすでに、全てを終え、今キラはアスランの腕の中で眠っている。
クイーンサイズのベッドは、ふたりが寝ても、余裕は十分にある。
細い肢体をしっかりと腕の中に抱きしめ、アスランも夢の中へと潜っていった。
それから、数ヶ月、何事もなく日々は穏やかに流れていき、それはアスランにとってもキラにとってもしあわせなものであった。
しかし、それから先に訪れることを、きっと誰も知ることはない。
ひとはおのれのたいせつなひとのためになら、どんな苦痛さえも絶えうることが出来てしまう。
かなしいことに、自分が無力だと感じた瞬間に、自分よりも、相手を思う気持ちが勝り、それゆえに自らのことを心配しなくなってしまう。
恐怖と隣り合わせであっても、それは、きっと変わらない事実。
じぶんよりもたいせつなひとが出来た瞬間に、そうして、ひとは変わってしまうのだ。
それは、ひどくうつくしいことであり、またひどく残酷なことであっても。
うつくしく、芳しい匂いを放つ華は、誰の目にも留まり、そして誰の手からでも傷ついてしまう。
大切にされていたものであるのに、それは憎しみと憎悪によって手折られ、枯れてしまう。
その華をもう一度、咲かせようとするのは、一体誰であろうか。