第5章 Be painful now , but tomorrow surely...... 6
服を全て剥がされた、キラの裸体の下部にあたる性器は白く濁り、そこに赤いものが混ざっていた。
痛々しいそれを、ベッドに巻きつけられていた白い、汚れたシーツで巻き、ひとりの男にその身を任せる。
惨状を見ていた男は少し痛ましい瞳をしていて、その身体に似合わず優しいのだなと、ラクスはひっそりと思うのだった。
警察関連に勤める人間に建物は任せ、呼んだ監査官が来る前に逃げるようにラクスと男たちは後にする。
車に乗り込み、ラクスは計帯電話を確認すると、何度かのアスランからの着信があった。
電話をかけると案の定、ワンコールでアスランが応答した。
『もしもし、どうだったのですか?』
必死なアスランの声が全てを物語っている。
「無事に見つかりました。ただ、非常に良くない状況ですね……。」
言葉を濁すラスクに、アスランは悲惨な声を漏らす。
『……それは一体どういうことですか?』
「覚せい剤が、身体に使われたようです。覚せい剤といっても、色々な種類があるので、それは検査をしないと分かりませんが、場合によっては、病院の方でないと処置が出来ないかもしれません。が、出来る限り、私の家で出来ることはしてしまいます。」
『ラクスが医師免許を持っていてくれたことを感謝しますね。ありがとうございます。……ということは、キラはラクスの家で?』
「そうですね……薬や検査薬などが自宅にあるので、そちらで禁断症状を抜くことになります。」
『ありがとう。じゃあ、キラのご両親に連絡します。俺もそちらに向かって大丈夫ですか?』
「来て貰っても大丈夫ですが、顔を見れるか見れないかは分かりません。」
言うと、アスランは少し黙っていたが、それでも構わないと、電話を切った。
覚せい剤は、一定期間使用しなければ、その効果や中毒状態も抜けるだろう。
だが、その間に彼女が意識を序々に戻していくにつれて、自分の身にあったことを確認していくだろう。
その時に、彼女がどういった反応をするのかは、ラクスには判断することは出来ない。
自宅に着くと、まずキラを浴槽に連れて行く。
男たちには車から家に運んでもらった後に、父の元へ帰るよう促したために、これからは全て自分の手でしなくてはならない。
髪をひとくくりにし、これから頑張らねばならないと、改めて気合を入れるラクスであった。
風呂からラクスの寝室へと連れて行くと、あまり作用が強くない睡眠薬の効果が薄れてきたらしい。
ベッドに寝かせようとしたところで、キラは目を覚ました。
トイレに行くという彼女に、尿検査薬を渡し、その検査をするように促す。
少しの時間の後、尿を入れた容器を受け取り、キラにはベッドに入るように言い、ラクスはその検査結果を調べるべく、洗面所に残った。
遮光尿容器に入れ、それを約十分間待つと、結果が出るという簡易な検査キットである。
暫くして出た反応は、アンフェタミンだった。
アンフェタミンの作用を辞典で調べつつ、キラの方へと向かうと、身体はやはり目が冴えて眠れないようで、その上、ひどく身体が疲労に襲われているようだった。
「キラ様。」
静かに呼びかけると、その目は驚くほどにびくびくしている。
多量な発汗をしているのは、薬の副作用なのだろう。
冷蔵庫から持ってきたスポーツドリンクのキャップを開けて、キラに手渡す。
背中にクッションをいくつか置いて、座りやすい大勢を作る。
そして、ベッドの傍に置いておいた椅子に自分も腰掛け、キラの背中を静かにさすった。
「疲れましたね……よく耐えました……。」
囚われていた三十時間の間に、何があったのかはあの状況を見ていれば、一目瞭然だった。
沢山の男に犯された後、覚せい剤の無理やり使用された痕跡。
今はラクスのパジャマを着せているが、それを少し捲れば、腕には何度か注射で摂取した後さえも見える。
それは、見るだけでも痛々しい傷跡だった。
キラの元へ行ったときに、起きていた離脱症候群を見る限り、丁度覚せい剤の効果が薄れた直後のものなのだろう。
これからまた二十四時間から三十六時間後に、同じような薬を求める、離脱症状が起きることを、用意したメモに記した。
覚せい剤の副作用のために、寝れない上に、気持ちは不安なものに満たされているだろう。
効果が発揮されているときは、性欲性感が非常に興奮し、身体能力の発達と、色々あるが、意識ははっきりせず、朦朧としている。
しかし、効果が薄れると、段々と意識が覚醒していくことにより、キラの記憶は、雲がかっていたものが今、今頭の中にざまざまと広がっているはずだ。
「も、う……誰にも、会え、ない・・・・・・。」
小声で、漏らしたキラの声が、丁度誰かの来訪を知らせるベルの音と重なる。
少し待っていてくださいね、という言葉を残し、玄関へと、ラクスは向かった。
「アスラン、に……キラ様のお母様、ですか……?」
キラの母親の顔は悲惨だった。
きっと寝れなかったのだろう、目が赤く化粧のノリも悪かったのだろう。
涙が浮かんでいるところを見ると、生きていると分かったものの、状況は厳しいことをアスランから聞いているに違いない。
「どうぞ上がってください。」
スリッパを出し、部屋に上がるように勧める。
ベッドルームに入れて、キラの顔を見せた方がいいのか迷ったが、それは駄目だと判断し、リビングへと通した。
「あの、キラの様子は……これから、どうなるんですか……?」
ハンカチを持ち、鼻を押さえる母親の姿に、ラクスはどう話したらいいのか、声を詰まらせる。
「覚せい剤を無理やり体内に入れられたようですが、検査の結果、薬の種類から見て、決して治らないものではありません。時間は、数ヶ月かかりますが、必ず完治します。ただ……摂取時に、男性からの暴行を受けているようで、その傷もありますので、覚せい剤だけであったのなら、書物に載っているような期間くらいで治る見込みですが、少し時間が掛かるように思います。」
言うと、キラの母親は泣き出してしまった。
隣に座るアスランが、その背中をさすっているが、当の本人も驚きを隠せないようで、顔を真っ白にした。
「そこで、薬の中毒を抜くために暫くキラさまに、この家に居てもらおうと思いますが、それでも宜しいでしょうか?キラ様の心の安らぐ、静かなところが一番のいい環境と言えますので、場合によってはここではなく、別の場所になるかもしれませんが、現段階では私の家でお預かりしたいと思います。」
「それは、全然構いません。どうぞよろしくお願い致します。」
「遅れましたが、私ラクス・クラインと申します。今パキラ学園ハイスクールにて保健医をしておりますが、医師免許も所持しております。キラ様の回復に全力を尽くしたいと思います、こちらこそどうぞよろしくお願い致します。」
それから、もう夜も遅いということから、キラの母は自宅へと帰っていったが、アスランは頑として帰らなかった。
「会えなくてもいいので、リビングのソファを借りてもいいですか?キラと同じ空間に居てやりたいので。」
そう言い張るアスランに、ラクスは強く言うことが出来ず、彼の要望を受け入れることにした。
何にも手がつかないのだろう、焦点の合わないアスランが、ひどく辛そうであったが、だからといって、キラを抱きしめることは、彼女にとって良くないことで。
これからやってくるであろう、つらい時間をアスランには是が非でも、受け止めてもらうしかないようだ。
小一時間ほどしてから、再びキラのところへ訪れると、彼女はぼんやりと、天井を見つめていた。
「ねえ、ラクス……。」
視界は空ろとしていて、まるで今にも寝そうな状態であるが、きっと副作用のために寝れないに違いない。
あとから薬を用意してやらないと、とラクスは思った。
「こんな汚いからだ、いやだな……。」
「絶対に、絶対に、キラさまは綺麗ですよ。汚くなんてありません。」
「うん……。」
こういった言葉も、薬の副作用なのだろうか。
それとも、はっきりした意識の中から生まれた言葉なのか。
ラクスには分からない。