Victim of Tide

1話





大国プラント。
それは大きな陸地を有し、自国でエネルギーを生み出すことの出来る、資源豊富な国であり、それは世界的にも指折りの大きな国にあたる。

大きな国であるがゆえに、そこには大きな政略があり、ひとには言えないような罪でさえ、犯す。
それは、ひとびとの手の中に隠されてしまい、多くのひとがその事実を知ることはない。

時代に流されているひと。
そして、それを知りえることはないひと。
そして、時代の犠牲となる、ひと。

それでも、国を成立させるためには、流す血と涙がが多少あろうとも、それは致し方ないことなのだろうか。






















「アスラン、仕度は整っているのか。」
ノック音と共に、パトリックが入ってくる。
「ええ。いつでも。」
ネクタイを鏡の前で確認しながら、アスランはおざなりに返事をする。
身だしなみを整えることは、自分の印象にも繋がるのだから、それはいい風に見せるに限るのだが、しかし、自分に全くの興味のないことのために、こうして身の回りをきれいにしなくてはならにということは、どれだけ面倒であるか。
そんな息子に、ため息を吐きつつ、しかし仕方のないことなのだろうか、とも思う。
「行くぞ。」

国の王子として、とうとう婚約者が宛がわれることになったと決まったのが、数ヶ月前。
そして、今日が始めての顔合わせとなる。
丁寧な封筒の中から出てきた、厚紙に貼られていた女性の顔は確かに美しく、きっとその履歴も素晴らしいものであろう。
しかし、見たときの感触として、非常に、好感のもてるものではなかった。
何かどう気にいらないのか、と尋ねられればそれは答えることが出来ないけれども。
父親がひどく勧めてくる理由は分からなかったけれど、断ったところでどうせ同じように、女性の写真が送られてくるのだと思えば、もう別に何もいいと、アスランは頷いた。
車に乗ること十分ほどで、国内でもかなり格式の高いと言われている、割烹の店の前でドアを開けられた。
父親とその女将が少し話した後、店の奥の方にあたる個室に通された。

少しすると、店の方から足音が複数聞こえ、婚約者側が到着したことをアスランは知った。
くつろげていた足を正し、襖の方をじっと見据える。
程なくして、扉が開き、彼女が現れた。
あまりじろじろ見るのはいけないとは分かっていたが、写真とはまた違った印象を受け、アスランは少し驚いた。
かと言って、どうにも気に入らない部分が解消されているわけではないが、しかし写真に比べ、陰が落ちたような顔が気になった。
化粧が施されているのだろうから、その真意は分からないけれど、決して華やかさは伝わってこなかった。
着ている着物は上等なものなのだろう、さらさらとした生地が、彼女の身体が動くのに合わせてしなやかに動いている。
彼女が座布団の上に座ると、アスランは父親の目に促され、自ら話しかけることとなった。
「はじめまして、アスラン・ザラです。」
そういえば、とアスランは思う。
どうして、今の時代に和風で顔合わせを執り行う必要があるのだろう。
元より、プラント大国で着物はひとつの形式的な衣装とされているけれど、それでもそれ自体はプラントの昔からの伝統のようなものでも何でもない。
だからといって、何がフォーマルとはないが、こんなにもがちがちに固めこんだものでなくてもいいはずだ。
「はじめまして、キラ・ヤマトと申します。」
丁寧に頭を下げる彼女を見て、なんて計算されたようなお辞儀だろうと、妙に関心した気持ちになる。
いつも家にいるメイドや、その他父の仕事についていったりパーティに出席すると頭を下げられることは少なくないが、こんなにも綺麗な所作を見たことがない。
だが、それに好感を持つことが出来ないのはどうしてだろう。
「うちのアスランは今年で十九だが、キラくんは……。」
「キラは十五です、ねえキラ。」
そうなのか、四つもしたとは、また結構年下なのだなと思う。
父親も四つも離れているのにその縁談を勧めてくるとは、少し意外だと思うが、ヤマトの血に目が眩んだと言えば納得出来るように思う。
キラの隣に座っているのはどうやら母親のようであるが、その顔はこの縁談を喜んでいるようには見えなかった。
かと言って、嫌そうな顔をしている訳でもなく、何か目立ったそれがあるわけでもないが、そういう負に似た感情を持っているような気がするように思えた。
悪魔でアスランの推測であるが。
自分の父親と、ヤマト家のものが話した末、当人同士で話すほうがいいと決まったようで、ふたりは席を後にした。

「改めまして、はじめまして。キラ・ヤマトと申します。これからどうぞ、よろしくお願い致しますね」
結婚前提なのだから、相手に失礼のないように、と父親は何度も言っていた。
粗相のない態度を、ときつく厳命されたことを、無視するわけにはいかないだろう。
「こちらこそ。」
目鼻立ちはかなり整っていて、顔のパーツとしては、十二分に美しいと言える。
ブラウンの髪の毛はきっとそう長くないだろう、しかし、その髪さえも結っているために、うなじが顔を出している。きっと、さらさらの髪であろう。
瞳の色は、その髪の色とちょうど合ったむらさき色よりずいぶんとやわらかい、しかしピンクとも言いがたい、アメジスト色だ。
何から話しかけると良いのか、少し勉強をして来ればよかったのかなと思う。
婚約者同士だからと言われて、何を話題に話したらいいのかよく分からない。
しかし、相手は自分よりも年下であるのだから、やはり自分から話題を挙げるべきなのだろう。
取りとめのないことから、アスランは話し始めた。



それから一時間余り。色々とたわいの無いことを話した後、それぞれ帰ることになった。
家に帰り着くなり、父親が玄関までやってくる。
そんなにも、この縁談を成功させたいというのだろうか。
「どうだったんだ?次に会う約束はしたのか?」
「ええ、別に普通の女性ではないですか。次に会う約束は特にはしていません。またメールで連絡を取ってみます。」
それだけ言って、自室へと戻り、ネクタイを緩めて、深くソファに腰掛けた。
普通の女性、というには少ししっくりこない部分があった。

結局、メールのやりとりは進んだが、それはどちらかと言えば取りとめもない話が多く、決してパーソナルな話にはならなかった。
そうして、年月は進む。














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