Victim of Tide

3話





女たちというのは、井戸端会議に華が咲きやすいのは、昔ながらの習性なのか。
姦しいという感じは、女が三人集まっているが、まさしく三人もいれば、話は弾む。
それが、多ければその声はやかましく、まさしく姦しいといったところである。

「え、そんなに話しかけやすいの?」
「そうよ、もっととっつき難いと思っていたけど、全然そんなことなかったわ。」
雇い主の息子のであるアスランの、彼女に対する態度は、昔―――といっても数年前であるが―――から仕えてきたものの多いメイドの目から見れば、すこし違和感のあるもので。
仕えている身であるから、決して生活の内部まで覗くことは出来ないから、そう断定することは出来ないけれど、そう気のきついひとではないというのが、メイドたちの認識でもある。
雇い主にあたる、パトリックと言い争いをした後にでも、決してメイドにも同じように対応するわけではない。
言い換えれば、いつも己を持っているひとだと、思っているのだ。
それが、婚約者にあたる彼女に対しては、その態度は冷たいように見えて。
カンの鋭いメイドたちは、その状況をいち早く見つけ、そしてそこからまた華が咲いた。
(きっとアスランさまの気に召さない方なんじゃないの?)
(美しいけれど、何か表情がねえ……固いというか。)
(分かる、なんかツンツンしてそうじゃない?)
(あの顔でそれだったら笑えるう!)
(美人だけどねえ、それに反比例して性格が悪いとか。)
普段のテレビの見すぎか、美人イコール性格が悪いというようなイメージが出来上がるのは、仕方のないことなのかもしれない。
見た感じでは、兎にも角にもアスランの目に、婚約者は大事にされているような雰囲気はこれっぽっちも伝わってこなかった。
それは、確かである。
ひとまづ、そう結論付けていたが、メイドのひとりであるミリィが機会を見つけて、キラと話すことに成功したのだが、それをしっかりと視界に留めていたその他のメイドたちが、言及しないはずがない。
「しかも、すごく箱入りお嬢様って感じよ。」
ミリィは、話したときに感じたことをそのまま伝えた。
「箱入り、ってことは……。」
「そう、大切に育てられて、かつ何もかもの振る舞いがとてもいいものだと思ったわ。決して我侭なひとという感じではないと思う。」
「お嬢様かあ……。」
メイドとして働いているのだから、もちろんそんな境遇に生まれたわけではなく。
お嬢様という響きに少なからず、夢を抱いたころがあり、それをそれぞれ思い出した。
「でも、そしたら、どうしてアスランさまはあんなにもキラさまを大切に扱わないのかしらね?」
ひとりのメイドが、不思議そうな顔をして、みんなの顔を見る。
「そう、ね……箱入りお嬢様を嫌う理由が,、益々分からないわ。」
それぞれ再び、思い思いの考えをくちぐちに口にしていく。
「それとも、ミリィと話しているときは、アスランさまの前とは違ってるとか?」
いい考え得たりという顔を、そのメイドは見せたけれど、きっとそんなことはないだろうと思い、それをミリィは否定した。
「きっと、そういうふうに使い分けてはいないと思うわ。計算高さは感じなかったもの。」
きっぱりとしたミリィの発言に、そうなのかとメイドは頷く。
まだまだメイドたちには、分からない謎が多く、皆うんうんと唸っているのだった。


ただ、ミリィの発言により、他のメイドたちが、キラに対して話しやすいと知ってからは、みな臆せず、ごく普通に話しかけられるようになったのである。


今日もいい天気だと、窓から差し込むまばゆい光を見ながら、ひとりのメイドがそんなことを思っていると、キラが現れた。
「おはようございます。」
以前は、あのアスランさまがあんなにも嫌っている、というイメージが払拭できず、中々話し掛け辛かったが、ミリィに話しを聞いて、少なくとも以前ほどは、戦々恐々という気持ちが無くなったと、我ながら思う。
さり気ないように、普段のように意識せず声を掛けてみると、少し戸惑ったような、しかしとても嬉しそうな表情が返って来た。
「おはようございます。今日はお天気がいいですね。」
なんて、取りとめもないことであるけれど、そうやって返事が返ってくる。
また、そのキラさまの表情の可愛らしさといったら……、とそんな新たな発見を見つけつつ、彼女の朝ごはんを取りに行く。
そして、運んでくると、丁寧に、ありがとう、という言葉が返って来た。
わざわざ、ひとつひとつの行動に礼を言うというのは、メイドという仕事をしてきて数年経つけれど、今までにこんなことをするひとに出会ったことがなかった。
だから、こういうのは反対に、受け入れがたいと思っていたのだったが、今日、その考えは見事に払拭された。
今まではメイドの対応が明らかによそよそしいものに写り、そのために表情が強張っていたのだろうか。
それが一転、今日の顔は、ひどく柔らかく微笑んでいて、それはひどく可愛いと思える。
「今日は、シェフが腕によりをかけたコーンスープもありますからね。」
そういって、ひとつひとつをテーブルの上に置いていく。
「まあ、美味しそうですね。」
並べられた後に、再びありがとう、と言って、それから食事に掛かるのか、手を合わせて食事前の挨拶を、口元が描いているのが見えた。
食べているところに、ひとが居ると食べにくくなるだろうと思い、部屋を下がろうと扉に手を掛ける。
「あ、シェフの方に、いつもおいしい食事をありがとう、とお伝え願えますか?」
咀嚼していたものをあわてて飲み込み、待ってください、と声を掛けられたから、彼女の方に向き直ると、そこには、可愛らしい笑顔がひとつ。
「ええ、必ず伝えておきます。では、ごゆっくり。」
こんなにも丁寧で可愛らしいひとだったとは、と考えを改めたメイドは、やはりその遣り取りを友人であり、同じメイドとして仕えるみんなに伝えなければ、とその足を急がせるのだった。















都市の郊外に位置する、そこは住んでいるひとが少なく、どちらかといえば中小企業などが多く建っている。
その中に紛れたように建てられた研究施設がひとつある。
そこに、目立たないような車を点け、パトリックは建物へと足を進めた。
外見からは予想もつかないようなものが、そこには沢山置かれている。
外から見える唯一の案内所は、ごく普通のものであるけれど、その奥、また二階部分は、部外者が入れるようなものではない。
見せ掛けのように設置されている受付を通り過ぎ、彼は二階部分へと進んだ。
そこにある、一番奥まった部屋へと、パトリックは迷いもなく、向かう。
重い鉄の扉を開けると、そこには、ひとりの人間が、ペトリ皿を覗いていた。
確か、この研究室に初めて来たときも、こんな風であった。
決して静かにこの部屋へきている訳でもないのに、ひとがそこへやって来たことに全く気づいていない様子で、彼は自らの研究に打ち込んでいた。
そのときに、はじめて極めて人間離れをした天才というのは、こういう人種を指すのかと思ったくらいだ。
きっと、こんなにもひとつのことに打ち込める人はきっといないであろう。
ぶつぶつと何かを言いながら、細かく何かを、描写しているらしい。
となりに置かれた白い紙に、何かが描かれている。
これを中断させると、この友人は酷く機嫌を悪くすることを、パトリックは知っていたから、彼のキリのいいところまで待つしかないのだなあと、近くにあった椅子に腰掛、彼の様子をぼんやりと眺めていた。













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