窓際を見ながら聞くきみの声

どうしてもそれが欲しいといったから






ぼくには、ひとつだけ、たいせつなものがある。
絶対に譲れない、誰にも渡したくないもの。
それは、ぼくが16歳のときの誕生日に、何が欲しいのかと尋ねられたときのことだ。

「何が欲しい?」
単刀直入に言う彼は、まだ15歳で、しかしその顔は確実におとなへの階段を上っていっていた。
アスランに言ったら殴られるけれど、特に小学校の頃は、少年というものもあったけれど、十二分に少女のような雰囲気を持ち合わせていた。
その、中性さがあっというまにどこかに薄れてしまい、中学卒業を前にするころ、アスランはすっかり、こどもをいう世界を抜け出していた。
伸びる身長、きりとした顔立ち。
しかし、そこには自分への、親友という特等席がちゃんとあって、それに、ひどく毎日恐れ、そして安心していた。
もしも、親友という位置づけから遠のいてしまったどうしよう、と。
何度も頭の中で想像しては、そのあまりに寒いそれに、キラは身ぶるいを何度もしてきた。
毎日、アスランが自分を呼ぶ、やさしい声を聞きながら、ああまだ僕は親友という席をもらえているのだ、とそう思っては、安心し、しかしそれがいつまで続くのだろう、とそんな悲しい想像をしては、幾度と無くため息を吐いてきた。
彼がすきなのだと自覚したのは、いつだろう。
もう、それさえもはっきりと分らないくらいに、アスランのことがすきだ。
「普通は、プレゼントって驚かせたほうが面白いんじゃないの?」
未だ新学期が始まったばかり、慣れない新しい高校という門を潜ってからすでに1ヶ月が済んでいた。
僕の誕生日まで、あともう少し。
「実際はそうなんだろうけど……。好みのものをプレゼントする方が実用的だろう。それに、もう高校生になって驚かすも何も、俺達こんなに長い付き合いしてきたのに。」
と、アスランは何でもないように言ってのけた。
ああ、僕にとっては、ひどく胸の躍るときだというのに、彼はそういう風ではないようだった。
昔から、淡々とした性格で、何事にもさばさばしている。
「実用的って……これが恋人同士だったらデレカシーが欠けてるって、絶対に言われるよ、アスラン。」
恋人同士、と咄嗟にキラの唇にのる。
その名の席に、今の親友というよりももっと近く思える、その席に座りたい。
「別にいいよ、そんなの無くたって。何とかなるよ、きっと。……それより、何が欲しい?」
アスランに、情緒を求める自分が間違いだったのだろうか、と一瞬思って、しかしそれは今考えるべきではないことだと、キラは自信を戒める。
「何ならいいの?」
「まあ、普通だな。高校生として一般的、とまではいかないが……一般というよりは常識の範囲内でな。」
「常識って、何さ。僕そんなに、いつもアスランを困らせるようなこと、言ってる?」
「……自分の胸に問いかけろ。」
帰ってきたのは、冷たいことばだったけれど、これは別になんら変わらないアスランだ。
いつもと同じ、変わらない、だいすきなアスラン。
「普通ならいいんだよね……うーん、何が欲しいかなあ……。」
「無理して今考えなくても、明日明後日なら、待つぞ?」
「あ、うん、じゃあちょっと待ってくれるかな。考えるよ。」
優柔不断な性格を知ってくれているのか、アスランはしばらく待ってくれると言った。
それは、何気ないことだけど、その何気ないことさえも、ひどくうれしくて、うれしくて。
とてもうれしかった。



バスタブの中に入りながら、キラは、一体自分が何が欲しいのだろう、とぼんやりと考えた。
いちばんに欲しいもの……それは、やはり恋人という位置だ。
いちばん欲しい、誰にも取られたくない、自分だけの彼であって欲しいから。
しかし、そんなことを絶対に言うことなど出来ない。
言って、もしも親友という位置さえも外れてしまったら。友人に戻れなくなってしまったら。
そんなふうに考えると、もうそんな僅かな願いさえ、胸にえがくことが出来ない。
もしも欲しいと言ったら。
彼はどうするのだろう。



結局、そのときの僕は、彼にロボットをもらった。
飛んで、喋って、首をかしげる。
緑色のそれは、まるでアスランの瞳の色だと、はじめて見たときに思った。
それは、一度幼いときにもらったものだけれど、パーツの磨耗で、しかもそれと同じものが売っておらず、作り直すのはひどく難しいと言われた。
提案されたのは、別のロボットだったが、僕にはそのみどり色の鳥の形をしたロボットがどうしても欲しかったから。
どうしても、それがいいと言ったら、アスランは「お前はそれが本当に好きなんだな」と苦笑しながら、もう一度作ってくれた。
不器用な僕には、絶対作れない。この世にひとつしかない、ロボット。
誕生日に再び貰った、その鳥型のロボットに、僕は初めて名前を付けた。
「トリィ」というのはひどく安直な名前だと思ったけれど、そんなことは気にならない。



「トリィ、ただいま。」
部屋に入ると、いつもスイッチを入れっぱなしにしているために、彼は自分を出迎えてくれる。
肩に乗って、首をかしげて、そして「トリィ」と言うんだ。
それから、僕の方に少し飛んできて、そのとがった唇に、ちょんと、ほんとうに一瞬のキスをしてくれる。
これは、僕がわざとプログラミングさせたものだ。
みどりいろの身体をしたトリィは、アスランの瞳を思い出させるに十分だ。
彼から貰ったロボット。
決して、譲れない、僕の大切なもの。





I borrowed title from "strano". Thank you .

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