窓際を見ながら聞くきみの声

声だけこんなに近くても、






目が覚めて、一番に目に入るのは、トリィだ。
僕が寝ている間中、彼が何をしているのかは分らないけれど、起きると必ず僕の隣に居てくれていて、起き上がると、肩に乗ってくるのだ。
僕の朝はトリィからはじまる。



母さんが用意してくれた朝ごはんをかけ込み、お弁当をかばんに入れて僕はあわてて家を出るのが毎日の習慣になりつつある。
どうしも朝は辛いのは、低血圧の所為もあるのだろうけど、根本的に朝が苦手ということもある。
だから、遅刻になるかならないかの狭間を、僕は生きているのだ。

授業は、聞いているときもあるけれど、そうじゃない時もある。
けれど、それは大抵アスランの背中を見ているか、窓から見える、毎日変わらない景色を眺めている。
朝早くからクラブの練習をしてから授業を受けている彼が、一度として船をこいでいるのを、僕は未だ一度もみたことがない。
いつも彼の背中はぴんと伸びていて、姿勢がひどく綺麗だ。
きっと、クラス中の誰よりも美しいだろうから、もしも背中の姿勢だけで誰なのかを当てろと言われたら、きっとアスランだけは間違えずに答えられるだろう。
黒板と、板書しているであろうノートを見比べたり、忙しなく写したり、彼の手が授業中に止まることはない。
首を動かす加減で、たまに揺れる髪の毛が、少し鬱陶しそうに見えた。
アスランは今、一体何を考えているのだろう。
もちろん、現在は授業の時間なので、彼がそれ以外に何かを考えているとは思えないけれど。
それで、その中の自分がどういう位置にいて、どんなふうに思われているのだろうと、いつも思うけれど、そんなことはきっと聞けない。
親友、という位置に僕はいるけれど、しかしそれはアスランの全てを知っているという称号でも何者でもない。
親しい友達だというのは確かなことかもしれないけれど、恋心を彼に持つようになってからは、確実に以前に比べて話し辛くなった。
すぐに、自分の中で話す内容、言葉を選んでしまう。
それは、以前のような親しさとは少し隙間が空いてしまったようで、自分でも自覚があるから苦しいなあと思う。
以前のように、何でも気楽に話せる親友という立場のままで居続けたいという思いと、それよりももっと密接した関係になりたいという思いが、自分の中で交わっているけれど、結局臆病な僕が選ぶのは前者の方である。

体育の時間は、いつもアスランの身体つきを見ることが多い。
虚しいことだとは知っているけれど、僕は彼から目を離すことが出来ない。
だから、得意のバスケットでも、やはりアスランの方に目が奪われてしまう。
何にでも大体うまく出来てしまうアスランはやはり、バスケットも、クラスの中では上手い方だった。
手の筋肉がボールと上手くあっているのか、彼のボールはいつもドリブルをしながらも、まるで手に糸が何かがついているかのように、その中に綺麗に戻っていく。
それは、クラブの子がしているようなドリブルだけど、クラブに所属していないアスランも十二分にうまいと思った。
同じコートの中で試合をしているというのに、相手チームとしてアスランをとめないといけないはずなのだけれど、そのきれいな身体と筋肉に、僕は度々目を奪われていた。
得意なバスケットだったけれど、それよりもアスランの方がずっと魅力的で素敵だった。
試合は両チーム引けをとらず、点数は奪い合い状態で、僕はすっかりその波から外れてしまっていた。
「キラ、パスっ。」
呼ばれて、オフェンスするためにメンバーと流れるように走っていたその足を、止めてしまった。
いつもならきっと、こんなヘマをしないだろうけれど、恋に目が眩んだ人間とはひどく格好悪いものだ。
自分目の前に飛んできて、その咄嗟の判断も出来ずに、僕はそのまま顔面にボールを受けてしまった。
「……っ。」
鼻がじいんと響いて、それから目にも当たったのか、そこか酷く痛い。
と同時に、きっとボールを投げたであろう友人が慌てて駆け寄り、謝った。
あまりに大きな音だったためか、試合は止まってしまい、大丈夫かと口々に皆尋ねてくる。
「大丈夫か、キラ。」
その中で一番自分の中に飛び込んできたのは、アスランの声だった。
「だい、じょうぶ、だと思うけど……ちょっと目が、痛いから、保健室、行く……。」
響いた音ほどひどいことにはなっていないだろうけれど、目が痛くて開けられない。
とりあえず保健室に行って、コンタクトの様子を見たかった。
「じゃあ、俺が付いていこう。ごめん、ちょっと保健室に連れて行ってくるよ。」
僕に小さく行ってから、チームのメンバーにそんな風に行って、アスランは僕の腕を引いて、行こうと促した。

「本当に大丈夫か?」
「う、うん。きっと、そんなに酷くないよ。」
相変わらず鼻はじんじんするし、目が痛いけれど、それよりも何よりも今は自分の胸の方がもっと酷い。
心臓がばくばく鳴っていて、今にもその所為で鼻から鼻血が出そうだと思うくらいに、僕は緊張した。
腕を引っ張るために、アスランは自分の腕を引っ張ってくれているのだけれど、最近はこうして肌が接触するということにも、自分の中でどきどきした気持ちになってくる。
しかも、顔と顔の距離も近くて、彼の声が自分の耳にとても近い。
「けど、一体どうしたんだ。得意のバスケットだろう、キラの。」
「……ちょっと、疲れてるのかも。頭、ぼおっとしたから。」
まさか、君のからだに見惚れていたとは言えないから、僕は言い訳をした。
「気をつけろよ、キラ。何かあったら、心臓に悪いから。」
例えば僕が倒れたと聞いたら、アスランは心配してくれるというのだろうか。
それは、どんな風な心配なんだろう、と僕は少しだけ想像をして、しかしそれは無駄なことだと、頭の中で頭を振った。
想像するということは、酷く虚しいことだと僕は、恋をして知った。
想像の世界は、自分の望みを反映したものであるから、とてもしあわせな気持ちになれるけれど、しかしそれはやはり想像の中でしかなく、現実はそれとひどくかけ離れたものだ。
もしも恋人同士だったら、とそんな哀しいは、自分を苦しくさせるだけだと、気付いたから。
どうして、こんなにも声は近いのに、体温さえも感じられるほどに近いのに、彼のこころからは、離れてしまっているのだろう。





I borrowed title from "strano". Thank you .

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