窓際を見ながら聞くきみの声

聞かせてきみの美しい歌声






保健室に行くと、そこには日替わりで病院から派遣されている医者が待っていた。
君は先に戻るといい、という男の医者の声に、アスランはちらちらと僕の方を何度か見ながら、体育館の方へ戻っていった。
それは、まるで後ろ髪引かれる、という風であったけれども、まさか彼が一体何に対して後ろ髪引かれるのかと考えて、やはり悲しくなって嘆息した。
鏡を借りて、コンタクトがどうなっているのか気になって、僕はそれを覗いてみた。
右目は無事に発見できたが、左目の方がどういう訳か、少しおかしい。
ボールにぶつかったときから、目の前がぐらぐらしていたから、どうしてだろうと思っていたけれど、どうやら衝撃でそれが取れてしまったのかもしれない。
目の中の瞳をじっと見つめても、一向にその陰は見つからず、両目で遠くを見ると、やはり視界がぼんやりしているのは、両方の目にきちんとコンタクトが入っていない所為なのかもしれない。
普段からパソコンを触っているのに加え、小さい頃は暗い部屋の中で何かをしていることが多かったから、視力は非常に良くない。
今の、片目だけ入ったコンタクトも視界がぐにゃりとしていて、ひどく気持ち悪い。
保健医にコンタクトがなくなったらしいことの旨を伝えると、作り直さなくてもいいのかと尋ねられた。
そうか、僕が使っているのは使い捨てとかなんじゃないから、作り直さないといけないのだ、と言われて初めて認識した僕は、頷くと、それならその目ではきっと使い物にならないだろうから、とりあえず今日は早退してコンタクトを作りに行くのはどうかと言われ、僕はその言葉に従った。

体育の授業は未だ三分の一ほど残っているために、更衣室には誰も居なかった。
体操服から制服に着替えて、忘れ物がないかを確かめてから、僕は教室へと戻った。
誰もいない教室に入ると、そこはがらんとしていて、そして酷く静かだった。
その静寂を破らないように、靴音を立てないで歩く。
自分の席に行こうと思って、しかしそこを通り過ぎて自分よりも数列前の机の前に、キラは立った。
きちんとした性格のアスランは、机の上には何も置かないで移動している。
そこには、消しくずひとつもなくて、それが彼の性格だと思うと、少しだけ笑いそうになる。
視界は相変わらずぼんやりとしていたけれど、僕はアスランの席に座って、しばらくぼんやりとしていた。



いつも見ている世界とそう変わらないはずなのに、片方にコンタクトが入っていないというだけで、それはまるで幻想の世界のようにも見えた。
地面に対して直立しているように見えても、少し視線をずらせばそれらは全てぐにゃりと形を歪ませてしまう。
それは奇妙なほどに、おかしくて、少し笑いそうになってしまった。
こんなにもおかしな世界なら、きっと僕がアスランにすきだと告げても、きっと笑ってもらえると、そんな自虐的な考えまで浮かんでしまうから、もう僕は相当に疲れているのかもしれない。

家に帰ると、母さんはどこかに出かけているのか、誰も居なかった。
帰り道に行き着けのコンタクトの店によって帰ると、作るのに数日時間が掛かるといわれ、その間に代わりのコンタクトを受け取ってきた。
ぼやぼやしていた視界にコンタクトを入れると、なんだかやっと自分の生きている世界に戻ってきたような気がして、僕は少し落ち着いたような気になる。
そして、同時に世界はやはり別段何も変わったことはなく、いつもと同じ、いつもと変わらない空間が流れているのだと、実感させられて、僕の一抹の夢の時間は終わってしまった。
部屋に戻ると、いつもの通りトリィが傍に寄ってきて、それからいつもと同じようにトリィと言うのだ。
この言葉に一体どんな意味があるのだろう、と何度か考えたことがあるけれど、それは作った本人に聞かないと分らない。
これが彼からの、すきだという言葉だったらいいのに。
そんな夢を描いて、しかしそれからいつも襲う、哀しい現実に、キラにはもう泣くことしか出来なかった。
陰からひっそりと、想っているだけでいいと満足していたはずなのに、いつのまにか自分は欲張りになってしまい、彼とひとつになることを望んでしまう。
そんな自分が酷く浅ましく、そして、霧消に哀しくなってしまう。
きみの、僕への言葉が聞けたらいいのに。
アスランの、好きだという言葉が。





I borrowed title from "strano". Thank you .

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