*ただただ何ものにも束縛されることの無い世界で* 同じことの繰り返しなら永遠なんていらない |
「お邪魔します……」 玄関のプレートを見て、はじめて彼の名前――-といっても苗字だけだけれど―――を知った現実を改めて考え直すと、名前も知らない人間を家に連れてくるのに抵抗はないのかなあと、考えた。 お茶入れるから、とスリッパを用意してから、彼はすたすたとリビングがあるのだろう部屋へと歩いていく。 「あの、名前……。」 「ああ、そういえば自己紹介をしていなかったね。俺は、アスラン・ザラ。二九歳。君は?」 「え、キラって言います。歳は十七」 「十七なんて、……凄く若いねえ」 しみじみ言いながら彼は、留守番電話のちかちか光っているボタンを横目に見てから、キッチンの方へと向かう。 留守録を聞かなくてもいいのだろうかと思ったけれど、彼はあまり気にしていないようで、どこからか出してきた豆を挽きはじめた。 豆を砕く音が部屋に響き、そしてそこから少しの豆の匂いがする。 そこらへんに適当に座ってと言われて、真っ白のカバーがかかったソファにキラは腰を下ろした。 首を回して部屋の様子を伺うに、物はあまり置かれてなくて、ひどく広く感じさせる。 壁が白いことも、その感を増長させているのだろうけれど、壁にも誰が描いたのか絵が一枚飾ってあるだけで、それは同時に寂しささえも感じられた。 ぐるりと部屋を見回しているうちに、コーヒーが出来たのか、ミルクと砂糖を聞かれて、いらないと答える。 「ブラックを飲むなんて、めずらしい」 「……そうなのかな」 「イメージ的には、女子高生って砂糖とミルクを入れるのが定番みたいなイメージがあるけど。」 笑いながら彼は、ガラステーブルの上に置いた。 真っ黒い液体がゆらゆらと、熱を出している。 今更、どうして殆ど知らない相手の家に居るのだろうと思ったけれど、逆らうのはやめようと思い、置かれたマグカップを手にとった。 「例えば自殺って……」 長い足をゆったりと組んで、マグを口元に持って行きながら彼は唐突にそう言ってくる。 外で見たときにも思ったけれど、彼はひどくプロポーションが整っていると思う。 足は長いし、腕もすらりと伸びている。顔立ちもひどく美しい。 しかし、少しだけ気になるのは一体彼は何をしているひとなのだろうか、という疑問。 昨日会ったときにも、今の彼の格好を見ても、会社に勤めているようなひとの服には見えないし、かといって遊びに行くための格好という風にも見えない。 黒いパンツに無地の薄いピンクのカッターにジャケットという姿は、一体何をしているひとか、ちっとも検討がつかなかった。 「それを選ぶ本人は、もしかしたら救われるかもしれないけど、残されたひとはきっと苦しむ」 「……?」 「だから、自殺って自分を殺すって書くけど、ちょっと間違っているような気がする……」 意味が分らない。 一体彼は何を言おうとしているのだろう。突然自殺について話されて、それにどう答えたらいいのかさっぱり分らない。 けれど、彼の言うことも確かにそうなのかなと思えてくる。 彼をちらりと見やると、静かにどこかを見ながらコーヒーを啜っている。その瞳はとてもとても碧い。 自分の視線に気付いた彼は、にこりと笑った。 静かで、そしてどうしてかと思うくらいに流れる穏やかな空気に未だに胸に残る違和感を拭えない。 それをかき消したのが、電子音だった。 部屋中に鳴り響くその音に、彼はうんざり、というような表情をしてから肩を竦めて、子機の方へと近づく。 受話器を取った彼のそれからは、離れたソファに座るキラの声にも十二分に響く声だった。 『どうして折り返しの電話がないのですか?』 「あー今丁度戻ってきたばかりなので。それより、少し声のトーンを落としてもらえませんか?耳が痛い」 聞こえるのは、多分女性の声。第一声は聞こえたけれど、彼が諌めた後は、声が聞こえることはなかった。 自分と話していたときとは、全く違う感じの、ダルそうな声で、彼はああ、とかうん、とか言いながら傍にあるらしいメモに何かを書き込んでいるようだった。それから数分もしないうちに電話は終わったようで、彼はソファの方へと向かってきて、しかし再びそこに座ることはなかった。 「ごめん、仕事をしないといけないことになったから、俺はこれから仕事部屋に行くけど、……キラって読んでいいかな、俺もアスランって読んで。キラはこのままここに居てくれて構わないから。ここには俺しか居ないし、誰も住んでないから」 ここに彼しか住んでいない、というのは確かにしっくりくる点があったから、納得は出来るけれど、しかし彼のような街中で歩いていれば、きっと凄く目立つようなひとがどうして結婚していないのだろうかといか、そんなことが思い浮かぶ。 「繁華街であんな、……自分を痛めつけるようなことをするくらいなら、ここに来るといい。 あまり君と話しをする時間はないけど、殆ど俺はここに居るから」 そう言って彼は部屋を出て行こうとするから、キラは慌てて彼に尋ねた。 「何の仕事を、……?」 「ああ、俺の職業?物書きをしているんだ」 そういって、彼は颯爽と部屋を出て行った。 果たして本当にこのままここに居座っていてもいいのだろうか、とそんな疑問がもくもくと浮かんでくる。 他人だ。殆ど他人に近いようなひと。 どうして、彼は、アスランというひとは、こんなに簡単に自分が家の中に入ることを、何でもないことのように言ったのだろう。 もしも、自分が金目のものを持って出て行くとか、そんな風に思ったりしないのか。 彼の言動と言い、行動と言い、分らないところはまだまだ残っているけれど、この空間と居心地は、今までに味わったことのないような、あたたかいものがあって、結局キラはそのままここに居座ることにした。 家に来たときに、すでに時間は九時を回っていたけれど、それから更に時間は進み、日付が変わろうとしている。 彼が仕事をするといってから数時間が立ったわけだが、それまで部屋の中を歩き回って、しかしやはり何もすることが見つからず、そのままソファにごろっと身体を倒した。 普段は、この時間帯で街中を歩き回ったり、ホテルの中で見知らぬひとを過ごしていたから、目がぎんぎんに冴えていて、眠れないだろうと思っていたけれど、少しの間ではあるが、どうたら眠れたらしい。 することもないから、そのまま起き上がってリビングを出た。 I borrowed title from "strano". Thank you . |
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